« 2004年12月 | メイン | 2005年02月 »

2005年01月29日

マクナマラ回顧録~ベトナムの悲劇と教訓~ - ロバート・S・マクナマラ


たくさんの教訓と示唆に富んだ本。

立花隆の書評に「政治に興味のある人であれば、1読、または2読にも値する」と書かれていたので読んでみた。
もともと政治の世界は苦手なのだけれど、この本をベースにした映画「戦争の霧」はとても興味深かった。

極めて優秀な1人の人間であるマクナマラが、国防長官という立場でどのようにふるまい、苦悩したかが豊富な引用資料を使って解説されている。
ケネディーやジョンソンをはじめとして、マクナマラ在任中のアメリカのトップにいた人たちの表情も読みとることができる。

前々から疑問だった「戦争努力」(War Effort)という言い方がなんとなく理解できた気がする。
特に北爆開始の際の判断や、北爆中止を訴えかけて覚書を書いたりしているくだりからは、特にそういった考え方を伺い知ることができた。

「掛け金をつり上げて白熱しているつもりが、実は掛け金なんてはじめから存在しなかった。」

国際政治においてありがちなことだけれど、「相手側が何を思って行動しているか」。
要するにそれを知ることこそが一番重要な事なのだろう。
アメリカのスーパーパワーが世界に対していかなる影響を及ぼすかどうか、もっとアメリカ人たちは真摯に考えるべきなのだ。

2005年01月25日

さよならバードランド - ビル・クロウ


「ジャズが好きならこれを読め!」って本。

翻訳の村上春樹が、あとがきに書いているように、「ジャズを聴いたことのない人が聴きたくなって、ジャズが好きな人はもっと聴きたくなる」本だと思う。

著者のビル・クロウは40年代後半から50年代にかけてベーシストとしてあちこちのバンドで活躍した人で、有名無名のジャズ・プレイヤーの逸話が事細かに書かれている。

題名からして哀愁漂う「ジャズに対しての別れ」が描かれているような気がするのだけれど、一時代において「人生を生きる=ジャズをやる」ような空気があったことをありありと目の前に展開させてくれる本はそうはない。

もっとジャズが聞きたくなった。

2005年01月18日

はじめての地学・天文学史 - 矢島道子、和田純夫


一般的にはあまりメジャーではない、地学・天文学の歴史の本。
一般向けで、中身がそんなに濃い本ではないけれど、分かりやすくてよろしい。

大陸移動説からプレートテクトニクスへ・・・というあたりはやっぱり面白いし、「種の起源」の時代の学問の世界の雰囲気を嗅ぎ取れたのはとてもよかった。

天文学では、Background Radiation, Dark Matter,・・・・、と最新のトピックについても言及している。
2002年の論文についても触れているので、本の執筆時期は相当新しいらしい。

少しアカデミックな匂いが強く、文章が単調で興味がないと読み続けにくいかも知れないけれど、物理学やその他の科学の発展に大いに貢献した学問の歴史がうまくまとまっているので、興味がある人ならサクッと読んでしまえると思う。

2005年01月17日

茶の本 - 岡倉天心


素晴らしい文章!

ひとつひとつの言葉、文章がとてもきれいで、落ち着いた気品に満たされている。
当時、すでに世界を知っていた岡倉天心でなければ書けないような、日本文明の持つ素晴らしさの賛辞もとても心に響く。

芸術的なインスピレーション、という意味では岡本太郎の「今日の芸術」と同じくらいよかったと感じた。

2005年01月10日

ご冗談でしょう、ファインマンさん (2) - リチャード P. ファインマン


ああ、やっぱりこの人大好きだわ。

単純に頭がよくて、それを活用しようしようとウズウズしているうえに、視線がとてもフェアーに保たれていて、それでいて好奇心も人の300倍はある。
こんな人が面白くない人生を送るわけがない!

とはいえ、「不正直な馬鹿ほど腹が立つモノがない」なんてコメントは自分のことを怒られているようで少々居心地が悪い。
せめて正直な馬鹿になるべき、と思う今日この頃。

なんだって、やってみなくちゃわからない。

2005年01月08日

ブータンの民話 - クスムクマリカプール


ブータンの民話が集められた本。
どの話も非常に素朴で分かりやすく、文字も大きいので読みやすい。

とても自然なかたちで人間の世界が動物や植物の世界と繋がっていて、なかなかいい味を出している。
せっせと真面目に働いて・・・という教訓めいたものよりも、偶然に助けられて幸せを掴む話が多いのも特徴かも知れない。

「王様の耳はロバの耳」の話があって、途中まではほとんど一緒だったのがとても興味深かった。
イソップ寓話に出てくるのは床屋だけれど、この話の中では「お気に入りの従者」になってる。

どこかの村の僧侶がチベットのガンデン村の試験で・・・なんて話があるのがまたナイス。

2005年01月07日

トリノ聖骸布の謎 - リン・ピクネット


Title: トリノ聖骸布の謎
Author: リン ピクネット, クライブ プリンス
Price: ¥ 2,625
Publisher: 白水社
Published Date:

これは面白い。

立花隆の書評で推薦されてたので読んだけど、これはよい本。
はじめからオカルトチックな世界に進みこんでしまって、著者も主観的にグイグイと筆を進めてしまっているような所も見受けられるのだけど、研究の内容がとても斬新なのでスイスイと読み進められる。

聖骸布とはキリストが十字架上での受難のあと、墓地の中に横たえられた際に体を包んだもの、とされる布で、類似品は有名なトリノのもの意外にもいくつかあるらしい。

で、このトリノ聖骸布が何故ここまで取り沙汰されるか、というと仮に偽造であったとしてもその作成方法が未だ謎に包まれていたかららしい。
他にやることを抱えながらもアマチュア精神でこの研究に取り組んだ著者達の努力はこの本に書かれた素晴らしい研究結果によって報われたのだろう、と思う。

この本で取り上げられている説に対する反証もいくつか出ているようなので、そちらもちらほらと読んでみたくなった。

2005年01月03日

DNA - ジェームス・D・ワトソン


1953年にDNAの2重らせん構造を発見したワトソンによる、発見の50周年記念として企画された本。

遺伝子についての過去50年の動きだけに限らず、メンデルによる発見や人類の歴史など、非常に盛りだくさんの内容。
写真や絵(カラーも!)がふんだんに使われているおかげでDNAのイメージが手っ取り早く分かるのもありがたい。

「遺伝子に関する研究は、いかに悪用される危険があろうとも続けるべきである」という信念を持つ著者の科学者としての誇りが至る所ににじみ出ている。

遺伝病に関する研究にはなかなか感銘を受けた。
資本の潤っている業界にとっての金の山と成りうる研究は、特許なり独占なりの危険があるのはどこでも一緒。

少し冗長的なところがあるけれど、現時点での一般向けの遺伝子本としては最もすぐれた本なのではないか、と思う。