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2004年11月28日

天を越える旅人 - 谷甲州


面白い!!

はじめはチベットの輪廻転生や山への愛情のようなものをベースにした小説かなぁ~と読み進んでいたら、途中からガクッとペースを上げて、最後は相対性理論的世界まで行っちゃう。
時間とか空間を超越して・・・なんて概念を曼陀羅だとか、中有だとかのマニアックな言葉を駆使して語られるのが新鮮。

またチベットに行きたくなった。

2004年11月27日

ヒトはなぜことばを使えるか - 山鳥重


臨床医であり失語症の研究者である著者が、様々な経験を通して考えた「ことば」に関する考察が、平易な言葉で綴られている。

脳や言語学に関する前提知識を全く要求せずに、とてもよくまとまっている。
「心のシステム」、「言葉と象徴性」、「言葉ってなんだろう」、などあなどの疑問点を持っている人であればきっと楽しく読めると思う。

さいごのほうの、グレゴリーが「Mind in Science」で提唱した、という心が生成される三つのシステムの解説はとても興味深かった。

2004年11月26日

探究〈1〉 - 柄谷 行人


深~い思想世界。

「他者」との繋がりを思想・哲学・文学・経済学・心理学・人類学などを織り交ぜて「探求」している。
ウィトゲンシュタインやマルクス、それにドストエフスキーなど、とにかく引用が豊富で、大半の思想をきちんと理解していない僕にとっては多くの部分が理解不能だった。

とはいえ、「他者」と対話の中で個人が生まれる(という解釈であっているかの自信もない)ことや、商品の売買を「他者」とのコミュニケーションという考えに照らし合わせた考え方はとても興味深い。

デカルトの「我思う」が「全てを疑うこと」を煎じ詰めた結果として生まれた思想なのはどこかで読んで分かったつもりでいたけれど、この思想をここまで深く追いかけて、他の現代的思想と一緒に論じた本はそこまでなさそう。

もっと本を読んで出直すことにします。

2004年11月23日

世間学への招待 - 阿部謹也・他


「世間」に関する論考を集めたもの。

ちょっとスカされてしまうような内容の文章が多いのだけど、まぁ興味があるので最後まで読んだ。

日本経済が高度成長期を通り越えて安定・停滞期に入り、「世間」的人間関係がまた現れつつある・・・という考えはちょっと賛成できない。
日本の「世間」的なものって、高度成長期の間も常に人と人、それに組織と組織の繋がり方として存在していて、そのときはポジティブに解釈されていたものが、停滞期に入ってネガティブに解釈されるようになった・・・というのが僕のイメージだからだ。

最後のほうの「個人という考え方の賞味期限が切れつつあり」「世間という考え方も、これからは通用しづらい」という意見には同意できた。

2004年11月21日

21世紀 知の挑戦 - 立花 隆


立花隆が20世紀を振り返るテレビ番組を作る際に取材した情報をまとめた本。

結論として「20世紀はサイエンスの時代だった」ということで、20世紀から21世紀へと通じる諸々の動きを分かりやすく解説している。
個人的に面白かったのは「ツングースカ大爆発」に関する部分と、最後のほうのふたつの講演をまとめたもの。

立花隆のすごいところは、物事の本質にあっという間に飛び込んでいって、周りのものには脇目も降らずに重要な情報だけを取り出してきて、それを平易な言葉で語ることができることだと思う。

バイオ系の話もとてもインスパイアリングで、改めてまた色々と勉強してみようか、という気分になった。
何だかんだ言って彼の本を読むと色々と影響を受けてしまうのはまだまだ自分の勉強が中途半端だからなんだろうなぁ。

ちと最近人文系の方向に偏っていた気がしていたので、これを気にまたサイエンス系にも手を出してみることにしよう。

2004年11月18日

自由からの逃走 - エーリッヒ・フロム


フロイト派の心理学者による、自由に関するとてもとても興味深い考察。

人が獲得した自由がある臨界点を越えると、人は逆に勝ち得た自由を捨てて束縛されることを選ぶことがある。
ナチスの台頭を許したヨーロッパの状況を、歴史的経緯を交えて心理学的にアプローチしている。

これは「万人による自由と権利の獲得は人類の歴史であり、疑うべくことない目的である」という世間一般的な認識に対しての大きなカウンターパンチだと思う。

2004年10月後半から11月前半にかけてとても大きな影響を受けた本。

2004年11月09日

シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界 - 立花 隆


素晴らしい!

なんといっても立花隆の素晴らしいところは、文体が平易で分かりやすく、それでいて物事の本質に触れているところだと思う。
最近難しめな本を読んで、無駄に難解な表現ばかりを見ていたので強くそう感じる。

香月泰男という人はこの本を見て初めて知ったのだけど、この本にはじめにある立花隆のペンを借りて物語る彼の人生観、というか生き方に強く共感を覚えた。

「結局、自分は絵描きでしかなかった」
この一言が香月泰男という人のほとんど全てだと思う。
そしてこの一言が香月泰男という人を特別な人にしているんだと思う。

今年の11月、12月中には静岡の美術館で彼の絵が見られるようなので、是非時間を見つけて見に行こうと思った。

ご冗談でしょう、ファインマンさん - リチャード P. ファインマン


面白くてあっという間に読み終わってしまった。

もはやただの物理学者という枠には収まりきれない面白い人間、リチャード・ファインマンのエピソードを集めた本。
なんていうか、彼は色々な才能に恵まれた人だと思う。
でも、彼のその才能を素晴らしいものにしているのがごくごく一般的な「正直さ」だったりするのがとても興味深い。

「本はあくまで道具やきっかけにすぎず、問題はそれを読んで考える人間の方だ」と、前々から思っている。
さらにいうと、ある種の人々にとって読書というものは他人が考えたことをベラベラとまくしたてられる厄介な代物に過ぎず、頭の良い一部の人にとって読書の必然性はないなぁ、と感じることも多いのだけど、まさにファインマンはこういった「頭の良い人」の部類に入る人だと感じた。

何事にも興味を持つこと。
なんだって楽しんでやってみること。

このふたつを知っていれば、大抵の人生は随分楽しくできるのに違いない。

2004年11月07日

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 - マックス・ウェーバー


世界の動きに強烈な弾みをつけた近代資本主義をプロテスタンティズムの禁欲主義に求めた本。
近代とは何だろう?と考え始めたときにこの本に出会えたのは幸いだと思う。

簡単に言うと、全人類的な教義であったカソリック的教会に反抗する形で発生したプロテスタンティズムがヨーロッパの個人主義を確立し、それに伴って人間の精神や生活様式が変化していった結果として近代的な資本主義、つまり生きる目的は生活することではなくて仕事をする姿勢(神に与えられた"使命"を果たすために)が生まれた、という感じだろうか。

当時最も素晴らしい商人として活躍していたアラビア人やイタリア人ではなく、禁欲的生活を強いられていた西・中央ヨーロッパの国々から結果として怠惰な享楽主義をもたらす資本主義が発達した、という考え方はとても興味深い。