村上春樹をちゃんと読むのは大学を出て以来、実に2年ぶり。
最近の作品はあままり好きになれなくて、意図的に遠ざかっていたのだけれど、「海外ボツ・ニュース」の人の編集後記に「ダンス・ダンス・ダンス」以来の傑作!という評があったので、それを信じて読むことにした。
さらにいうと、最近読んだフローベルの「感情教育」にも相当影響を受けていて、この作品が村上春樹の初期作品に与えた影響を考えて、また少しずつ村上春樹の本が気になり始めていた頃だった。
全体的に、「羊をめぐる冒険」+「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」+「ねじまき鳥・クロニコル」が合わさったような印象を受けた。
物語の主人公は15歳なのに、これまでの村上春樹の小説に出てきた主人公と同じようにタフで、クール。
登場人物が多くて、しかもみなそれぞれが表情豊かな人たちで、さらに物語が彼らの視点をも通して語られるのが今作の新しいところ。
「風の歌を聴け」や「1972年のピンボール」のあたりの時代からは全然異なる地平に立った作品であることは確か。
逆に「国境の南、太陽の西」や「スプートニクの恋人」は今作にたどり着くための過程のようなものだったのではないか、とも感じられた。
個人的に好きだったのは、なんといってもナカタさん。
ネコさんと話のできるナカタさんの謙虚で、優しい態度の描写はとても心が和む。
唯一、主人公がビールを飲むシーンがないのが残念だった。