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2004年10月23日

粉と臼 - 三輪茂雄


文句なしに面白い。

現代版の柳田国男的、「臼」全般に関する考察。

臼が人間の生活に密着し、工業技術の初期の発達に欠かせないものだったのだなぁ、と感じた。
水車からの動力を臼の回転へと転用する歯車のからくりや、臼の目立て。
単純であるが故に美しい世界だと思う。

著者は元エンジニアで、大学に籍を移してから臼の研究を始めたらしいのだけど、食の文化やその他の知識にもよく通じていてひとつひとつのエピソードの紹介がとても味わい深い。
「美味しいものは美味しい」という単純な真理が忘れられている現代を憂いでいる気持ちに深く共感できた。

2004年10月22日

中国人という生き方 - 田島 英一


面白い。

軽い読み物風なノリなのだけど、中国的文化のエッセンスがとてもうまく紹介されていると思う。

高校時代に、周りに中国人が多かったから分かるのだけど、あのメンタリティーは本当に独自のものがある。

「百聞は一見に如かず」の続きに「百見は一行に如かず」とあることを初めて知った。
何事もやってみないと気が済まないし、身に付かないし、なによりも楽しくない!と考えてる自分は中国人的メンタリティーを多分に備えている気がした。

中庸に関する考え方もしっかりと紹介されている。
かのアリストテレスでさえ、正義のあり方には中庸が肝心である、みたいなことを書いてた覚えがあるので、これからはエクストリームではなくて中庸思考が流行るんじゃないかなぁ~と漠然と考えた。

2004年10月20日

量子のからみあう宇宙 - アミール・D・アクゼル


量子論のなかでも一番不可解と言われる「絡み合い」に焦点を絞ったポピュラー・サイエンスもの。

アインシュタインの光電効果やヤングの2重スリットなどもしっかりと取り上げられているので、物理の知識が(ほとんど)なくてもそれなりに読み進められる。

全体を通して、「絡み合い」に何らかの業績を残した科学者達の足跡をたどる構成になっている。
これはポピュラー・サイエンスとしては正しい構成だと思うけど、いささか冗長的になりすぎるし、本題である「絡み合い」の理論に対する解説が足りなくなってしまっている気がした。
素直に論文読めって?

2004年10月19日

ルーツ - アレックス・ヘイリー (2 & 3) / 3


クンタ・キンテと、その子供達・孫達の物語。

「結局人間が人間に支配されている限りは幸せになんてなれっこないのだ」

なんといってもチキン・ジョージの話が一番面白い。
彼が他のだんなの家の奴隷に求婚しに行くところの描写はまるでパールバックの「大地」のようだし、イギリスに渡って帰ってきて自由になった一家を新しい地へと導くところも非常に勇気づけられる。

やはり現代は歴史のある時代と比べればまだマシになった時代なのだろうか?
「ルーツ」ではこの世の楽園のように(少なくとも精神的には)描かれている文明のアフリカ的段階の生活がどのようなものだったのか?

現代社会のシステムに対する疑問と同時に、その改善方法について考えさせられる素晴らしい本。

2004年10月17日

環境と文明の世界史 - 石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


環境に主眼をおいた文明史を語る対談。

全体的に砂漠的、遊牧民的文明に対するカウンター・カルチャー的存在として、森的、農耕民的文明の存在を語り、それを今後必要とされる思考様式のようなものとして取り上げている。

ヨーロッパが美しいのは、一旦壊してしまった自然を人工的に再構築したからだ、という意見はとても納得できる。
最後の方に対談者の本音が凝縮されていて、これまでの歴史で人類がはめていたわっか(孫悟空における緊箍)のようなものを再構成する必要がある、という意見も、同意。

ただ、これだけ個人が自由を獲得してしまった状態で「じゃ、明日からは使う電気を半分にしましょう~」と言うのはあまりに厳しい。
これ以上酷い方向にいかないように、せめて欲望が暴力的なレベルに達さないようにコントロールするような方法こそが求められているのではないか、と感じた。

唯一気に入らなかったのが、日本の学会的事情をタラタラと語った部分があったりするところかも。

2004年10月13日

長江文明の探求 - 梅原猛・安田喜憲


中華文明の源流を長江の中・下流域に求める本。

きれいな写真と稲作社会と森の文明の解説は、ひとりの日本人として自然と興味をそそられる。
最近は重めな本ばかりを読んでいたので、写真を眺めながらでもついつい先を急いで読み進めようとしている自分を落ち着かせながらゆったりとした気分で読んだ。

梅棹忠夫が西洋と東洋の間の存在として「中洋」という概念を見出したように、これまでの世界的な動きを形成してきた「畑作牧畜型」文明に対する「稲作漁撈型」文明を高らかに宣言している。

確かに、文明史観として「砂漠的、人工的」世界観と「森林的、自然的」なものを対比的に捉えることは面白い試みであると思うし、強く共感するところもある。ただしその文明の形態が必然性から来るものではなく、自然環境との緩やかな対話によって長い時間をかけて育まれたものである、という認識は大切だと思う。
つまり、「稲作漁撈型」文明だから自然に対して厳しいことをすることはない・・・といった固定的な観念に固定されてしまうと思わぬ間違った結論を導いてしまう可能性が常にあるのではないだろうか、と感じた。

文中の“私たちは力と闘争で物事を解決する畑作牧畜型の都市文明に、ほとほと疲れ果てた。アメリカとイラクの戦争でいったい何が生まれたのか。そして畑作牧畜型の都市文明は「力と闘争の文明」を生み出し、地球環境の保全、自然と人間の共存、民族と民族の共存、文明と文明の共存の点においても行き詰った・・・”といったあたりに安田氏の本音が現れているのではないだろうか。

風雪のビヴァーク - 松濤明


素晴らしい文章力。
そしてなんといっても輝かしい山行の数々。

淡々と山に向かっていく記録と、山への正直な気持ちを吐露した文章、それに命の灯火が消える瞬間の記録。
著者の人柄に素直に惹かれてしまった。

なんといえばよいのか分からないけど、とにかくこの本は素晴らしい。
最期の瞬間の手記ももちろん強烈なインパクトを持っているのだけど、それ以前の記録として残っている文章があまりに素晴らしい。

「バッキャロー」と若く威勢のよい声をあげたり、普通に考えたらどう考えても命を捨てているとしか思えないようなルートをビバークのみで踏破していく著者。

山岳部の先輩が一番影響を受けた本だ、というので読んでみたのだけれど、これは自分も相当影響を受けてしまいそうな気がする本だと思った。

2004年10月11日

海辺のカフカ - 村上春樹


村上春樹をちゃんと読むのは大学を出て以来、実に2年ぶり。
最近の作品はあままり好きになれなくて、意図的に遠ざかっていたのだけれど、「海外ボツ・ニュース」の人の編集後記に「ダンス・ダンス・ダンス」以来の傑作!という評があったので、それを信じて読むことにした。

さらにいうと、最近読んだフローベルの「感情教育」にも相当影響を受けていて、この作品が村上春樹の初期作品に与えた影響を考えて、また少しずつ村上春樹の本が気になり始めていた頃だった。

全体的に、「羊をめぐる冒険」+「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」+「ねじまき鳥・クロニコル」が合わさったような印象を受けた。
物語の主人公は15歳なのに、これまでの村上春樹の小説に出てきた主人公と同じようにタフで、クール。

登場人物が多くて、しかもみなそれぞれが表情豊かな人たちで、さらに物語が彼らの視点をも通して語られるのが今作の新しいところ。
「風の歌を聴け」や「1972年のピンボール」のあたりの時代からは全然異なる地平に立った作品であることは確か。

逆に「国境の南、太陽の西」や「スプートニクの恋人」は今作にたどり着くための過程のようなものだったのではないか、とも感じられた。

個人的に好きだったのは、なんといってもナカタさん。
ネコさんと話のできるナカタさんの謙虚で、優しい態度の描写はとても心が和む。

唯一、主人公がビールを飲むシーンがないのが残念だった。

2004年10月10日

カラシニコフ - 松本仁一


世界中の紛争で大活躍のロシアの自動小銃、カラシニコフにまつわるドキュメンタリー。

AK*** のAKは、「カラシニコフ」による「自動小銃」の頭文字らしい。
設計が46年というのにまず驚かされるのと同時に、彼の技術に対するひたむきな姿勢、それに世界中の紛争の理不尽な現実がうまく描かれている。

最後の章で描かれているソマリア・ランドの現実は、それとは対照的に希望に満ちている。
ソマリアの国立銀行の頭取を勤めた服部さんの文章を思い出した。
つまり、世界の秩序を取り戻すためにはたゆまない努力が必要だし、それが結実するのには時間がかかる、ということだ。

それにしても、昔だったら図書館で借りてる本を最近は「なんとなく」で買っている。
まぁ、別に生活が厳しいとかそういう訳じゃないからいいんだけどさ・・・。

ルーツ1/3 - アレックス・ヘイリー


著者が、先祖であるアメリカに連れてこられた黒人奴隷クンタ・キンテの系譜を辿った著述の1/3。

思えば、この本は就職活動で日本に帰ってた時に教養文庫がなくなってしまう際のフェアーの時に見かけて以来ずっと気になってた。
その時は「菊と刀」と「東方見聞録」しか買わなかったのだけど、その次に見かけたのが神保町の古本屋の店先で、3冊2,000円だった。

なんだかその値段で買うのが癪だったので、1,800円で売ってるアマゾンのマーケットプレイス経由で買った。
気のせいかその店先で買ったものと同じもの(古さと、それでいて全体的にきれいなところが)のように思えたが、その可能性もありうる。

アフリカでの生活がとても楽園的に描かれていて、そこからアメリカに連れてこられた経緯の描写は対照的に地獄のよう。
誇りを持ち続けるクンタ・キンテの運命やいかに!・・・ってことで2巻へと続く・・・。

アラビアン・ナイト 1/10 - バートン編


ちょうど1年くらい前に神保町で買った、全十巻のアラビアンナイトの第一巻。

今にして思うとあのときなぜ十巻まとめ買いしなかったのか・・・と無念な気分。
時折、思い出したようにページを繰ってきてようやく1/10。

特別急いで読む、というより「そんな気分」な時に楽しく読んで、他の時は忘れていられる、という便利な本。
とはいえ一旦その世界に入ると2,3日は読みふけってしまうのはやはり物語がとても魅力的だからだろう。

とてもとても豊かな世界観がすぐそこに感じることができる素晴らしいお話だと思う。

2004年10月07日

中世の窓から - 阿部謹也


期待していたほどよくはなかったけど、面白い本。

ヨーロッパという、まさに「現代」を生み出したといってもよいほどの文明が越えていった、中世という時代の中へ一歩踏み込んだ観察を行っている。

話の内容としては面白いものばかりなのだけれど、さすがにそれが延々と続くと少し飽きがくる。
とはいえ鐘の話や、伽藍の話、それに中世社会でのお金の存在など、自分でも調べたくなってきてしまうトピックに溢れているのは素晴らしい。

中世から近代へと向かった時代の輪郭のようなものがもう少し具体的に書かれていればよかったかもしれないと思った。

2004年10月01日

母型論 - 吉本隆明


前半はよかった。
後半はちょっとついていけなかった。

「吉本隆明」的、といえばそれまでなのかもしれないけれど、今の自分に彼の思考についていく余裕がない。
生活としても、精神としても・・・。

彼の初期作品から読み進めていきたいな、と思った。