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2004年08月30日

脳内現象 - 茂木健一郎


ソニーの研究所から日本に「クオリア」を広めた人の新しい本。

意欲的でinspiring。
かなり積極的に「意識」の謎を解くための手がかりを探すための試行錯誤を行っていて、それがとても分かりやすく書かれている。
「メタ認知」という名の「擬似ホムンクロス」の考え方を手がかりにしている。

吉本隆明の「言語にとって“美”とは何か」で解説された“自己表出”と“指示表出”という概念が“感情性クオリア”と“志向性クオリア”と言葉を変えて同じような概念として説明されていたのがとても興味深かった。

さいごのほうの「デカルトを越えて・・・」の論調の部分は読んでいてとても熱くなる。
近いうちにしっかりと読み返してメモに書き出してみたいところ。

2004年08月28日

壊れた脳生存する知 - 山田規畝子


“高次脳機能障害”を煩った医者による記録。

「人生とは経験である」、という言葉がとても印象深く残った。
脳卒中を4回も経験し、そのうち2回が一歩間違えれば死に繋がるようなもので、それを乗り越えてきた彼女の言葉はとても心強い。

彼女を支えていたのは「医者としてのプライド」もあるだろうし、「人生に何かを求める態度」もあるだろう。
特に後者の中で「子供に対する愛」という側面が大きな影響力を持っていたのだろうと思う。

改めて、人生に何を見いだせばいいのかを考えさせられた。
「ギャグ人生」でもいいとは思うんだけどね・・・。

「ブロンクス物語」でデ・ニーロが繰り返し繰り返し言う「才能を無駄にするな」という言葉を思い出した。
今の自分にできることをもっとどん欲にやりたいな、と思った。

反社会学講座 - パオロ・マッツァリーノ


なかなか同調できる本。

テンポのよい文体で独自の「人間いいかげん史観」に基づいた現代社会の分析を行っている。
漫画のようにスカスカと読んでいける内容だけれど、語られている内容の中には深刻なものも沢山ある。

筆者が本を書くに至ったであろう利用として推測できるのが、ここのところ顕著な「富の偏在」だろう。
システムとしてアンフェアーな日本が、現実としてもアンフェアーになってしまっている描写がところどころに見られる。

日本人も外人も大抵はだらしない人間で、そのための社会保障なのにそれが効果的に機能していない国で頑張り続ける日本人はたしかに偉い。

「母は陽気な花売り娘」という自己紹介にとりあえず一本取られた。

2004年08月26日

安心のファシズム - 斎藤 貴男


21世紀に入ったあたりからの日本の危ない側面をつらつらと書いてある本。

何故か全体的にスカッと読めない文章なのがひっかかる。
マスコミや固定化した“世間”的関係の力によって思想の単一化が進んでいる、というのはそれなりに正しいと思う。
そしてそれに乗じた形で自分の望む方向に世論を作り上げ、国の進む方向をあるレベルでコントロールしている層が存在しているかのように見えるのも確か。

銃を持つ -> 銃を発射できる
軍を持つ -> 戦争ができる

というあまりにも単純な論理が通じないのが一番の問題だろう。

2004年08月23日

産業革命と民衆 - 角山栄・村岡健次・川北稔


とてもよい。

複数の要素が絡み合って、産業革命が人々の生活の大きなターニングポイントになった描写がとても細かく書かれている。

何よりも、民衆の生活がいかに変わっていったか、という視点で産業革命を捉えようとしているのが新鮮に感じられた。
19世紀がいかに人間の歴史にとって大きな意味を持っていたか、と思わされる。

人間は本質的なところでは変わらないと思う。
だけど、生活習慣や、社会構成、それに家族の存在などによってその人の考え方や価値基準は大きく変わってしまう。
結局われわれは、産業革命という名の事件後の人間という文脈においてしか理解されえないのだと感じた。

マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 」がとても読みたくなった。

2004年08月22日

過防備都市 - 五十嵐太郎


全体的に、近年進みつつある「高コスト的」「ビッグブラザー的」、そして日本においては「村社会的」な要素を多く含んだ都市の変貌を憂う内容。

「人に優しい」という建前の割に、本質的なところで全然人に優しくない都市の姿が描き出される。

世界的な傾向として、「安全」に対して大きな投資が行われる風潮が高まりつつある。

これからの都市社会のあり方について考えさせられるところの多い良書。

2004年08月15日

言語にとって“美”とは何か(上) - 吉本隆明


えらい時間をかけて読んだおかげで本がボロボロになってしまった。

言語について、芸術について、真摯に突き詰めた言説。
日本の小説を表出史としてゆっくりと眺めていく。
驚くべきほど内容が濃い。

「吉本隆明入門」というつもりで買ったのだけれど、もうちょっと軽めのものにすればよかったかも・・・と後悔。

言語の起源について色々と考えさせられる。
自己表出と指示表出。
口語体と言語体。

・・・後半もゆっくりと読んでいくことにしたい。

2004年08月14日

人間は進歩してきたのか - 佐伯啓思


「一般教養としての近代思想」のよきスタート地点だと思う。

自分の中で煮え切れていなかった近代思想の解釈がサラサラと行われていて、西欧思想の全体的な流れがすこしはっきりと見えてきたように感じた。

当然著者の主観も入っているのだけれど、元ネタが大学の授業だけあって非常に分かりやすく、スケッチ的に書かれているのがよい。