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2004年03月28日

鳥葬の国 - 川喜田 二郎


とても中身の濃い探検記。

ネパール西北部のチベット文化圏の村で筆者のグループが文化人類学的調査を行っている様子が描かれている。
フィールドワークの苦労の話や、チベット人の気質、それに文化先進国の怠慢・・・。

少し荒っぽい特徴的な文体なのだけれど、慣れてしまった時にはすでにもう読者はその世界の中に引きずり込まれてしまっている。

独特な血縁関係決定の法則で、父性を骨、母性を肉とする説明の部分がとても面白かった。
レヴィ・ストロースの「親族の基本構造」を読もうと思っていたことを思い出した。

2004年03月27日

ナウシカ解読 - 稲葉振一郎


後半部分(死と戦争、それと対談)がよかった。
著述の重心点にナウシカがあるわけではなく、その代わりにユートピア論と政治論を混ぜたようなものがあった気がした。

「つまり、救済というものがドーンとあって、ネオンサインのように輝いているものでないことだけはたしかですね。」

なんて、まさに On Your Mark の世界観。

「人が生きていく」ってどんなことだろうか、とか色々と考えさせられた。
「人は死によってしか救済されえないのかな?」
とか。

中沢新一が言っているような、世界の新しい局面の芽生えを願っている宮崎駿の世界観をそこに見たような気がした。
司馬遼太郎的、博愛的、友愛的思想もチラリと見えた。

2004年03月23日

うるさい日本の私 - 中島 義道


日本社会に存在する暗黙の了解的世界観に対する批判の書。

この本を読みながら、幾度となく“自由と規律”のことを思った。

そこに“世間”的ルールが存在することにより、反射的にそのルールを守ることがクールなのか。
それとも、そこに“社会”的秩序が存在し、その秩序を守るために行動することがクールなのか。

多様性を許さずに、みなが同じように考えて、同じように生きるように・・・という教育システムの存在が垣間見える気がする。

2004年03月22日

国家 - プラトン


「国家」を読了。

前半を年末年始のタイ・アフリカ行きで読んで、後半はここ2,3週間ずぅっと持ち歩いて読み続けていた。

正義に関する議論、教育に関する議論、ロジカルに議論を積み重ねられているため、しっかり読まないと全部把握するのは難しい気がした。

結局、白田先生が言っていたように、ギリシャは考える人=国民、そして、考えない人=それ以外という明快なルールで動いていたのだな、と思った。
そして、そんな社会の中でも正義と不義との軋轢は発生するのだな、と感じた。

人間が生きていくうえで、何を支えにするか、とか、まぁいろいろ考えさせられてもらった。

2004年03月10日

墨東綺譚 - 永井荷風


さりげなくて、それでいて深みのある小説。

なぜかワイド 岩波文庫を買ったのだけど、挿し絵がとてもいい味出していて良かった。
文体も、せせこましい紙の上に書かれるよりものびのびとした紙の上の方にあっている。

淡々しているようできめの細かい人間描写がとても暖かい。
昭和初期の日本の精神風土に少しふれられた気がした。

2004年03月06日

日本人の顔 - 司馬遼太郎


対談集。

日本人のアジアからは少し離れた特異な性質がどこから来ているのか。
日本の国の行く末をいつも心配している司馬遼太郎の生の声が聞こえてくる気がした。

沢山の示唆に富んでいるのがよい。

最近カタい本を読み続けていたので、良い息抜きになった。

江崎玲於奈さんの
“しかし結局、「自我」は、自分のやりたいことをやるところから出発するんじゃないですか。自分流の価値観を持つといいますか、おれと人とは違うんだという一つの自由独立の精神というか。自分はこういう才能があるけれども、他人にはこういう才能がない、簡単に言えばそういうことじゃないですか。”

とか、司馬遼太郎本人の
“それは日本には山と川がたくさんあって、多宗教の世界世界だからではないかと思う。砂漠で星空を眺めていたら一神教の気分になります。”

なんてとてもいい発言だ。
歌舞伎町なんかを歩いていると、東南アジア的雑多でヌメヌメした粘っこい「何か」を感じるのだけれど、司馬さんが言っているのもそういうことなのではないかと思う。

遠藤周作が「沈黙」で日本的ドロドロの社会では、キリスト教は根元から腐ってしまう・・・という表現をしていると思うのだけど、とても言い得て妙だよなぁ、と感心した。

2004年03月03日

沖縄文化論 - 岡本太郎


「沖縄文化論」を読了。

この人の視点は本当に好きだ。
素っ裸で何だって「水」に流して忘れてしまう。
本当の意味での生活者として、自然に輝くことを知っている、そんな沖縄人に会ってみたい気がした。

脳はいかにして神を見るか - アンドリュー・ニューバーグ


アメリカの神経学者による、「人はもともと宗教的なのか」論。
人が進化の段階を経る際に、宗教的な発想力を持つことで大きなメリットを受けた時代ははっきりあったのではないか、と思った。
もちろん、このまま全人類がニーチェの言う超人のようになろう、とするとオウムみたいに修行して解脱しないと・・・みたいな考えを持ち出す必要が出てきてしまう気がするのだけど、そんなことは忘れて楽しんで読める。

「自己認識が幻想である」という意見は、村上春樹の「羊をめぐる冒険」にも出てきた。
とても好きな主題だ。

現在の人類が求めているのは、なんだかんだ言って宗教的(という言葉がネガティブに認識されているのが問題な気がするのだけど・・・)な体験を求めているのではないか、と思った。

「現実は、そうでないものに比べてよりリアルに感じられる」なんてのもすごい気に入った。

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