Tour of Friendship 2013

タイの自転車レース、Tour of Friendshipにチームメイト3名と一緒に参加してきました。初めての海外レース、しかも本格的なステージレースということで、あれこれと思うところがあったので、レースに参加して見たこと・聞いたこと・感じたことをまとめておきます。

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イベント概要

Tour Of Friendshipは2013年が15回目の開催で、当初はアンチドーピング施設(タイは麻薬絡みの問題が多いのです)が主催する自転車イベントという位置づけだったようです。もともとはよりレース的要素が少ないところに、海外からの参加者が増えるにつれてレース意識が高まってきたようですが、まだまだ緩くて楽しい雰囲気を適度に残しています。「タイのナンバーワンレースになる」という意味でイベント名にR1をつけて、多くの人やスポンサーを巻き込んだビッグイベントに成長させることに成功しているようです。

2013年の参加者は 29カ国から来た 260名。うち日本人はシンガポールから参加のNext Stageの方々(10名ほど)と、日本から来たわれわれ4人と、Neil Prideの自転車を購入して(?)参加したメンバー6,7名の総計20名程度。圧倒的多数は東南アジア圏に住んでいる欧米人で、シンガポール、香港、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアなどなど。これに加えて、これらのエリアの現地人の方々や、オーストラリア人、インド人、香港人などが主だった参加者。

イベントへの参加費は16900バーツ。現在のレートだと日本円にして5.5万円程度。空港からの送迎およびイベント開催中のホテル代、全ての食事代がこれに含まれるので、イベント中はほとんどお金を使わずに済みます。これを安いととるか、高いととるかは人それぞれでしょうが、イベントそのものの価格としては破格の値段だと個人的には思います。ただし、日本からの参加には飛行機代が必要となるため、少なくとも10万円程度の出費は必要となるでしょう。

タイは先進国に比べて物価が安く、政治的安定度がそこそこ高く(最終的には王様が出てきてどうにかしてくれていた)、社会的インフラなどがある程度しっかりしているので日本や欧米圏からの出資や企業進出が多く、マイルドな国民性もあってかこれをうまく受け止めて成長してきた実績があります。このレースはこのメリットを最大限に活かすことで、「自転車レースの夢の舞台をタイで実現した」というノリのイベントであると感じました。

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イベント運営について

イベントの運営そのものについては、残念ながらやや辛口にならざるを得ません。何でもかんでもカッチリした計画を立てて、そこから外れることを嫌悪する日本人的価値観からすると信じられないほどいい加減な運営体制ですが、大きな所では外していないので、その場その場のアドリブ力でカバーして…というタイ・スタイルのやり方になっています。

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タイ・スタイルの運営を一言で形容するならば、「大前提として運営者はベストを尽くしてよいようにしてくれるから、うまくそれに乗っかれるようにしておく」というところでしょうか。「お客様は神様」で、至れり尽くせり日本的サービスからすれば問題は多いですが、自分で頭を使って気にすべきポイントをしっかり押さえていけば、ストレスを感じずに参加することができるでしょう。主催者側ときちんとコミュニケーションしていくのも重要で、こちらが困っていることをきちんと伝えれば、彼らなりにベストを尽くしてくれます。

例えば、今回のイベントで印象的だったのが事前の参加登録。登録手続きはウェブ経由で行い、そこから誘導されるpaypalのウェブサイトで参加費を支払う仕組みになっています。ところが、これとは別に運営のあれこれを事実上仕切っている人に直接コンタクトして参加する口があったようで、これが混乱の元。260人の参加者のうち、後者の方法でエントリーしていた人が100人ほどいたようなのですが、なんとこれらのエントリーが全て正しく処理されておらず、初日の受付の現場は大混乱…になるかと思いきや、流石はタイ人、もちまえのアドリブ力でなんとか処理をして、結果的に最後まで問題なくイベントを運営しきってしまいました。恐るべし…。

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イベントのスケジュールについても、ある程度まとまったものが出てきたのは大会初日の3,4日前。最終的にこのスケジュールはある程度の確度で守られていましたが、このあたりのノリも日本とは多いに異なるので注意が必要でしょう。

安い人件費をふんだんに使うことができるタイでは人海戦術をとりやすい、というのがひとつの特徴で、バスの運転手さん、サポートバイク(水運び、カメラマン運び、そのほか)、サポートトラック(クーラーボックスから水をバイクに渡す等)、チームバンの運転手さん、果ては先導の警察まで、色々と融通が利きやすいタイでは、独自のイベント開催術がある、ということのようです。

移動と宿泊施設

空港からホテル、レース会場間等の移動については基本的に主催者側が面倒をみてくれます。今回のレースの全体的な流れをまとめると…

  • day0: 空港に到着->バンコク近郊のホテルに移動->受付->ブリーフィング->チップ確認->バイク預け
  • day1: ITTのレース会場にバスで移動->レース->トラックに自転車を預けてバスでホテルに戻る
  • day2: 荷物をトラックに預ける->レース(バンコク近郊を離れて北東のサラブリ市方面へ)->day2-4で宿泊するリゾートホテルに移動->荷物受け取る
  • day3: 朝からレース->昼頃にゴール->ホテルでくつろぐ
  • day4: 朝からレース->ホテルから65km離れた山頂でゴール->バスとトラックでホテルに戻る->ホテルでくつろぐ
  • day5: 朝からレース->昼前にレース終了->パッキングして自転車と荷物を預ける->表彰式->バスで空港またはday0/1で泊まったホテルに移動

…という感じだったでしょうか。

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今回のスケジュールだと、レース初日の前日の昼くらいまでに到着していると、よい具合にバスとトラックで自転車と人をホテルまで運んでくれて、余裕をもって登録を済ますことができ、ブリーフィングにも参加することができました。当初はもっと遅い時間に到着予定だったのですが、ケチってトランジット有りのフライトにして結果オーライでした(笑)。

レース開催中の移動については、後述するチームバンを借りることでチーム単位で動くことができるので大きなメリットを感じました。というか、主催者としては事実上チームバンの利用をある程度前提にした形で運営をしている印象を受けました。

バンコク近郊のホテルは「普通に泊まれる」レベルのホテル。特筆することはないですが、回りからはエアコンが効かないとか、シャワーからお湯が出ないとか、そんな声も聞こえてきました。また、参加者数に100人のギャップがあったことに関係があるのかどうかは分かりませんが、初日の部屋数が足りておらず、別のホテルに泊まることになった…なんてこともあったようです。

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サラブリ市近郊のホテルは、山の麓の静かなリゾートホテルという風情。このカウヤイというの国立公園(?)はバンコクから最も近い山間部ということで、地元の人たちがのんびりしに来るような場所のようです。全室コテージタイプで、チームCBの4名も2人1部屋x2の1棟を借りることができたので、行動を一緒にする意味でもなかなか便利でした。フロントの対応はそれなりにしっかりしていましたが、マッサージの予約がしっかり取れていなかったり、初日は片方のクーラーが壊れていたり(言ったらすぐに直してくれました)…と色々ありましたが、概ね快適に泊まることができたと思います。

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レース最終日は昼過ぎから表彰式で終了後に解散。我々4名はバンコクにもう1泊or数泊の予定でホテルもとってあったので、主催者のバスとトラックで空港まで人とバイクと荷物を送ってもらい、パッキングしたバイクバッグを空港の荷物預け(100B/24h)に置いてバンコクに移動しました。事前に言っておけばday0/1に泊まったバンコク近郊のホテルに戻ることもできたようなのですが、バンコク市内に出るにはやや不便な場所だったので、観光をするという意味では悪い選択肢ではなかったようです。最速で帰る場合は最終日の夕方以降の便で帰国も可能ですが、100%レースだけに来たことになってしまうので、1泊くらいはバンコクに泊まってレースの余韻を楽しむのがよさそうです。

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ちなみに、バイクの運搬で使っていたトラックはちょっとした傑作で、よくできたラックが内蔵されており、効率的かつ安全に自転車を運搬しているのはなかなかよいなぁと思いました。

レースのレベル・走り方

チームCBの4名が参加したオープンカテゴリーは、出走者64名でレベルは思ってた以上に高かったかなという印象でした。ステージレースなので簡単な比較は出来ませんが、トップ数名が突出した力をもっていて、その次に15-20名程度の強者グループがいて(このメンバーは大体集団ゴール)、その他に完走はできるかできないかというグループがいて…というノリで、自分が知っている限りではおきなわ210kmと似たようなレベル感なのかなという印象。

また、ステージレースということもあってか緩むところは徹底的に緩み、キツくなるところでは平坦だろうとどこだろうと徹底的に上がる…という意味で、距離が短めになりがちで展開の少ない日本のレースに比べて速度変化への対応の重要性も感じました。

オープンカテゴリーを走った限りだと、欧米圏のチームやインドのチーム、香港のチームなどなど、どこも「レースをしに来ている」意識が強く、グルペット集団をうまくコントロールするのは至難の業でした。「不要なところで前を引いたら負け」というところも徹底していて、相手をやっつけるためには手段は選ばない…というのは言い過ぎですが、素直で真面目な日本人としては少し面食らってしまうようなシーンも多々あり。

そんな中、いつもまったり走れるグルペットを作ってくれている柔和なキャラのタイ人(タイの某合宿であの選手やこの選手とも走ったことがあるらしい)や、FTP340Wあるけど80kgという香港在住のイギリス人など、グルペット集団でお喋りしながら楽しく走れるメンバーとレース中に友達になれたのはよかったです。

個人的には、2011年にJBCFで苦労して入賞を勝ち取った頃のコンディションであったならば、オープンカテゴリーでレースに参加できる走りができた気がする…という感触は掴めました。とはいえ、仮にGC争いでよっしーさんがリーダージャージを着た状況を考えると…ちょっと気が重いかも…(汗)。

年齢別カテゴリーについては、走り方を見ている限りだと実力のばらけ方がより顕著で、強い数名とその他大勢といったノリのレースをしているように見えました。なんとなくな感触からいくと、おきなわ140kmと100kmの間くらいのレベル感でしょうか。

コースについて

大事な点を書き忘れていましたが、このレース、なんと道路規制をしていません。初日のTTこそ普段から使われてなさそうな道路を完全封鎖していましたが、day2以降のロードレースでは、先導の警察のバイクや、集団を護衛するかのようにくっついているバイクがサイレンを鳴らして回りの車が集団に近づきすぎないようにし、反対車線から車が来たら、基本的には警察バイクの威光で道端に止めさせて…という形でレースが進行します。

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day2は平坦な高速道路を延々と走って北上したのですが、3車線中左側2車線をレースで使うイメージで、右側の車線を巨大なトラックが猛スピードで駆け抜けていったり…となかなかヒヤヒヤするノリでした。また、この高速道路区間は路面が信じられないほど悪く、「”HOLE!!”という叫び声がした瞬間に目の前に大穴が!」ということが多々あり、バニーホップで避けたり、そのまま突っ込んだり、左右に避けたり…ということを繰り返すことになりました。オープンカテゴリーでは序盤に4,5名を巻き込む落車が発生しましたが、これは穴を避けたレーサーが横の人にぶつかって…ということだったようです。

day3以降は車通りの少ない山岳エリアに入り、路面もそれなりに安定したアスファルトがメインだったので、大きなストレスなく走ることができました。

タイのこのエリアの山岳について言えることとして、登りでも下りでもアップダウンが延々と続く地形が多い、というところでしょうか。来年以降ここを走るかどうかは分かりませんが、日本ではあまりお目にかかれないレベルで細かいアップダウンが続くので、それを意識した練習をしておくとよいかと知れないと思いました。

サポート体制

レース中・レース後のサポート体制についても日本のレースと大いにノリが異なります。

まず、灼熱地獄のタイのレースでの最大の危機は水がなくなることなわけですが、集団に残っている限りにおいてはバイクから水をもらうことができます。いつでももらえるわけではないですが、バイクが集団の右側にやってきて水を差し出そうとするので、そのタイミングで右側に出て行って手を挙げればもらうことができます。ペットボトルでもらって、飲むなり、かけるなり、ポケットにしまうなり、隣の人に渡すなりして、最終的にはその辺にポイ、というのがタイ・スタイル。

とはいえ、集団から離れてしまうと水をもらえる機会は激減してしまうので、もらえる時にたくさんもらってキープしたりということを考える必要があります。オープンカテゴリーは常に一番先を走っているので後退していけば年代別カテゴリー等の集団近くで水をもらうことができますが、年代別カテゴリーで遅れてしまうと、なかなか厳しいものがあるかも。ちなみに、集団から飛び出して前を走っていると、集団にいる時よりも水補給をもらえる印象でした。

ToFの特筆すべき点として、4人以上のチームであれば、専用のサポートカーとなるチームバン(運転手つき)を借りることができ、これがとても有効です。レース会場間の移動や、着替えなどを入れておくこともできて便利なのですが、それ以上にレース中のアクシデント対応ができたり、補給をもらえたり、いざとなれば回収してもらえたり…とより安心してレースを走ることができます。運転手さんにはチームジャージを覚えてもらい、集団の後ろに張り付いて走ってもらうことになりますが、レースの展開次第では前に逃げているメンバーについてもらったり、遅れてしまったメンバーについてもらったり…といったことも可能なようです。

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今回チームCBではチームバンを借りずに参加したのですが、レース中のパンク、メカトラなどへのサポートは基本的になく、回収車さえも存在しないため、day3の山頂付近でパンクした時はなかなか苦労しました。最終的には水を補給してくれるバイクに乗せてもらってホテルまで帰るというアクロバティックな技でなんとかしましたが、同じ日にパンクしてしまった人は一緒に走っていたグルペットメンバーのバンに載せてもらって帰ったり…とそれぞれ苦労していたようです。

なお、チームバンは3,000B/dayで運転手さんつきで借りることができるので、チームメンバーが5,6人くらいいれば、全日程で借りても1人の負担が10,000円くらいで済むようです。

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メカトラや怪我についてのサポートは良好で、例えばフレてしまった前輪は大会直属のメカニックにタダで直してもらえたり、必要なパーツ(ヘルメット、ボトルケージ(day2は道が悪くてチームメンバー中2名のボトルケージが取れました)、チューブ)についても一通り調達できる体制が整ってます。怪我についても、複数のサポートカーの中に救護班が入っていて何かあったら急行できるようになっており、夜のホテルでも救護スペースがもうけられていて、落車した人の治療などを行っていました。

食事・その他

ホテルでの食事ですが、基本的にはタイ料理が中心で、朝食などはパンやシリアル、ヨーグルトなども選べる…というノリでした。「タイ料理」というと、トムヤムクンとかを思い浮かべる人も多そうですが、より庶民的な食べやすい料理(といっても辛いものは辛いですが)が中心なので、よほどタイっぽい食事が苦手な人でなければ問題ないでしょう。

レース日程中の一日の行動は、朝5時に起きて朝食を食べて、8:00からレースして、昼前後にレースが終わり、午後ダラダラし、夕ご飯を食べてその日のレースの表彰式&写真やビデオ鑑賞をして、10時前に寝て…という自転車中心の生活で実に健康的。

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とはいえ、ステージレースなので特に朝食でレースに備えて「食べねば」という危機感でがっつくのは胃にとっては大きな負担になるので、胃が強い人も弱い人も何らかの対策をとっておくのがよいでしょう。個人的にはMeitanのTop Conditionをもっていきましたが、チームメイトもこれで胃が復活したりと効果はあったようです。

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表彰式の前後で見せてくれるビデオはなかなかの仕上がりで、レース終了後数時間でまとめたとは思えないほどよくできていました。写真についてもオフィシャルのカメラマンがバンバン撮ってくれますし、主催者側の「楽しんでもらおう」という気持ちがこのあたりにもよく出てきているように感じられました。

ちなみに、プーケットあたりの島では、夜になると欧米人向けに映画の上映会みたいなものがそこかしこで開かれるわけですが、それと共通のノリを感じました。観光立国として、欧米人が好きなものがよく分かっているタイ人だからこそできるサービスと言うことができそうです。

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勢いで気づいたことを書いてきましたが、総合的に見てTour of Friendshipはとても楽しい自転車イベントだと言うことができると思います。

東南アジア圏の自転車乗りの間ではちょっとした有名イベントになりつつあるらしく、ほとんどの参加者がリピーターという話も納得。オープンカテゴリーでは強豪レーサーや東南アジア圏の強豪アマチュアチームが本格的なチーム戦を闘っていますし、年代別カテゴリーも白熱した闘いが毎日繰り広げられていたようです。

日本から参加するにあたっては、ある程度海外慣れしていることと、ロードレースを走った経験があること、そして少なくともチームに1人はある程度英語でコミュニケーションできるメンバーがいたほうがよさそうですが、何よりも「楽しむ」という強い気持ちさえあればあとは何とかなるでしょう。

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自分としては、子供の頃に住んでいたタイで自転車レースに参加する…という面白い体験ができて、本当に楽しい5日間でした。「レースを走る」という意味では消化不良で苦しい日々が続きましたが、少なくともレースのノリやレベル感は分かりましたし、チームメイトが一勝を飾ってくれましたし、一定の満足を得て日程を終えることができました。

しっかり練習して臨む価値のあるレースだということがよく分かったので、来年以降参加する場合は高いプライオリティーを設定して準備をすることにしようと思います。

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Tour of Friendship 2013」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 2013/05/02 【Tour of Friendship】最終日 | BearBell

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