バイシクル・トレーニング・ブック – 竹谷賢二

MTB日本選手権チャンプx4で、スペシャライズドのアドバイザーをつとめている竹谷さんによるトレーニング本。

トレーニングというと、単純に「強くなる」ための練習内容が強調されがちだけど、実際のレースではスキルに精神力、それに「強さ」とは別のところにある「速さ」も必要になってくるわけで、そのあたりもきちんと解説した本としてはこれまで読んだどの英語のトレーニング本よりもよくまとまっているなと思った。

目標設定からモチベーションの維持、レースで冷静さを保つことの重要性といったメンタルな部分、それに重心に対する意識の大切さ、ブレーキ・コーナーリングといったスキルの部分に関してきちんとページを割いているところがよいなと思った。スポーツバイクを手にした多くの人が、クラブやチーム等に属さず自力でスキルを身につけていかざるを得ない日本の現状を考慮してのことなのだろうと感じる。

代謝系や呼吸系といったあたりに関するトレーニング理論も基礎的なところからしっかり解説されていて、それに続く章では独自の(?)強度ごとのゾーン分けによるトレーニングメニューや、目標に向けてのメニューの組み方、筋トレメニュー等の紹介がある。自転車のトレーニングに必要な知識は一通り網羅されていて、簡潔ながらも核心をついた文章でとてもよく書かれた本であるという印象を受けた。

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「外的動機は富や名声という他人の評価を得ることだが、達成度合いに応じては叱咤、叱責といったマイナスの評価をくだされることもある。努力=評価とはならないシビアな世界だ。プロ選手の場合、生活のためには結果が大事。外的動機は内的動機と同じくらい重要だ。しかし、アマチュアの場合は内的動機が80%程度と優先されるべき。他人に賞賛されるととても嬉しく励みになることも事実だから、外的動機も20%程度は取り入れたい。(P.24)」

「最後は気合いと根性だ!(P.25)」

「物理用語ではパワー=仕事率で、ベロシティ=速度、フォース=力と言いわけるが、この力とパワーが混同されることが多く、筋骨隆々の人はパワー型といわれるが、それはパワーではなく「力」である。トルクは出せるが、速く回せないとパワーを高めることはできない。細身の人でも的確に素早く力を加えれば、高いパワーが出せるということだ。(P.55)」

「トレーニングには、さまざまな理論や方法論、手法やデバイスが存在する。それらを知り特徴をつかむことは大事だが、どれが良いのか悪いのか、あるいは正解か不正解なのかといった違いを比較するよりも、自分自身に適しているか否かという視点を持つことが大切である。自分自身の制限要素を解消するならば、何をしても“当たり”なのだ。(P.104)」