イタリアの自転車工房

日本を代表する自転車レースカメラマン、砂田弓弦さんがイタリア国内にある24の自転車工房を取材した本。


海外工場での委託製造や自転車フレームのハイテク化が進む前の、クロモリのオーダーフレームがレースの現場で使われていた時代の雰囲気を残す「自転車工房」に、著者自ら足を運んで取材しているのが大きな特徴。今では失われてしまった「職人によって支えられた自転車レースの世界」で、それぞれの自転車工房が掴んできた栄光の歴史が綴られている。

BianchiやGIOSといった長い歴史を持つメーカーから、COLNAGOやDE ROSAやPinarelloといった比較的新しくて商業的に成功したメーカー、さらには長く細く個人でやってきたPESENTIのようないかにも自転車工房然としたメーカーまで、工房の歴史からレースへの関与まで丁寧かつマニアックに取材されていて、とても読み応えがある。

この本を読むと、イタリアの自転車工房がいかに「レースで勝つための道具作り」として発展してきたか、ということが分かる。レースがあって、レーサーがいて、勝つための自転車を作る職人がいて・・・という構図だ。と同時に、この本に出てくる工房の多くが今では外資によって吸収され、残っているのはブランド名だけという状況になっているあたりに時代の流れを感じた。

1994年の本だけど、著者はそれからの5-10年で「職人による競技用の自転車作り」を取り巻く環境が大きく変わることを見越してこの本をまとめたんじゃないかな、と思った。