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自転車メディア アーカイブ

2009年03月20日

サイクルブックス その4

一回目二回目三回目に引き続き、自転車関係の本をまとめて紹介。

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Title: ツール・ド・フランス 勝利の礎
Author: ヨハン・ブリュニール
Price: ¥ 1,575
Publisher: アメリカン・ブック&シネマ
Published Date:

ランスのツール・ド・フランス七連覇を支えたブリュニール監督の本。
2007年にディスカバリーチャンネルチームの解散が決まった頃に書かれた(取材された)内容で、まだ現役としてバリバリ走っていた頃の話から、ランスに監督を頼まれてTDF7連覇を支えた話、そしてランス引退後に再びTDFでの勝利を掴むまでの話がミックスされて詰まっている。


Title: 北京五輪もヤバい!? ドーピング毒本 (洋泉社MOOK)
Author:
Price: ¥ 1,050
Publisher: 洋泉社
Published Date:

現在のドーピング事情を様々な視点から見つめた本。
それぞれの記事が「ドーピング」というスポーツ界におけるひとつの現実にしっかりと踏み込んだ内容になっていて、なかなか読ませる本になっている。


Title: 自転車で遠くへ行きたい。
Author: 米津 一成
Price: ¥ 1,365
Publisher: 河出書房新社
Published Date:

いわゆる「ロングライド」の魅力が詰まった本。単行本だけど文字が大きいので1時間くらいで読めちゃう。スポーツ自転車の爽快さ、100kmが楽に走れること、200kmもなんとかなること、300kmを越える世界があることなどなど、スポーツ自転車に興味のある人なら誰もが楽しめる内容になっている。


Title: エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング
Author: 八田 秀雄
Price: ¥ 1,890
Publisher: 講談社
Published Date:

体を動かすエネルギーがどのようなサイクルで生成され、体内を巡り、使われているかを素人でも分かるように解説した本。トレーニングに限らず、ロングライドをいかにバテずに走りきるかといったことを考える上でも、自転車馬鹿にはおすすめ。


Title: Campagnolo: 75 Years of Cycling Passion
Author: Paolo Facchinetti, Guido Rubino
Price: ¥ 3,992
Publisher: Velopress
Published Date:

カンパニョーロ社が存在する前の時代の自転車の進化から、オーネクロス峠での伝説的なエピソードとカンパニョーロ社の誕生、そしてディレイラー装置の発展にいかにカンパニョーロ社が絡んでいったといった流れがよくまとまっている。歴史的なレーサー達や、カンパニョーロ社提供のレアな写真やなんかも収められているので、じっくり読んでもパラパラ見ても楽しめる。
ちょっとした写真集として買うのもあり。

2009年04月24日

マルコ・パンターニ 海賊の生と死 - ベッペ・コンティ

稀代の名クライマー、マルコ・パンターニの生き様を綴った本。

これだけ波瀾万丈なドラマに彩られた人生を生きた人も少ないだろう。若い頃から自転車乗りとしての資質を見いだされ、そのカリスマ性からロードレース界のスターの座を射止めるも、不運な事故や怪我、それにドーピングスキャンダルに泣かされ続け、悲劇的な最期で短い人生にピリオドを打ったパンターニの姿を克明に描き出している。

EPOによるドーピングが常態化していた90年代のレースシーンではあるけれど、その中にあってあれだけ突出した走りを見せたパンターニは、やはり途方もなく優れたクライマーだったのだと感じる。天与の才能とむき出しのガッツ、それに茶目っ気を兼ね備え、人間的な弱さまでも表に出してしまうパンターニは、いつでも人の注目を奪わずにはいられない。そして、その注目の結果が彼の人生を狂わすことになってしまったのだろう。

レースの戦い方という観点から見れば、彼のアタックはいつも無謀で無計画的なところがあるし、長いステージレースの中で味方を作るという政治的努力も行わず、あくまで一匹狼的に勝利を求めた彼の戦略は「戦略」と呼べるものではなかった。それでも、観客の期待に応えるため、そして何よりも自分の内なる衝動に駆られるようにしてアタックを繰り返したパンターニの姿は、痛々しくも勇敢で、今もって多くの人たちの心を打つのだろう。

不必要に原語(イタリア語)を使いすぎている翻訳に不自然な印象を受けたものの、パンターニに関する資料としては一級品の価値を持った本。

2009年05月31日

サイクルブックス その5

一回目二回目三回目四回目に引き続き、自転車関係の本をまとめて紹介。

フルバージョンの書評はこのへんをどぞ。

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Title: 快感自転車塾―速くはなくともカッコよく疲れず楽しく走る法。
Author: 長尾 藤三
Price: ¥ 1,575
Publisher: 五月書房
Published Date:

ちょっとアレなタイトルだけど、ゆるく楽しく自転車とつき合っていくノウハウが詰まったよい本。
レースのための道具であるがゆえに「速いこと=正義」になりがちなロードレーサーではあるけれど、「ゆっくり」「楽しく」「カッコヨク」自転車遊びしている著者の姿勢には共感できることが多い。


Title: マルコ・パンターニ―海賊(ピラータ)の生と死
Author: ベッペ コンティ
Price: ¥ 2,625
Publisher: 未知谷
Published Date:

稀代の名クライマー、マルコ・パンターニの生き様を綴った本。
不必要に原語(イタリア語)を使いすぎている翻訳に不自然な印象を受けたものの、パンターニに関する資料としては一級品の価値を持った本。


Title: 関東周辺スポーツサイクリングコースガイド
Author: 山と溪谷社
Price: ¥ 1,995
Publisher: 山と渓谷社
Published Date:

これはなかなかよい本。
ロードバイクに慣れてきて、100km走ることが一大事ではなくなってきたくらいの人が、関東近辺で走りやすいルートを検討するのに使えそう。自分の場合、2年前にこの本に出会っていたら・・・という感じ。


Title: 乳酸を活かしたスポーツトレーニング
Author: 八田 秀雄
Price: ¥ 1,890
Publisher: 講談社
Published Date:

主に持久系スポーツで「疲労物質」として目の敵にされている乳酸がいかに生成されて、それがいかにして再利用されるか・・・ということを説いた本。
同じ著者による「エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング」のほうがよくまとまっている印象を受けたので、どっちかを一冊読むということであればあちらのほうがよさそう。


Title: ツール100話―ツール・ド・フランス100年の歴史
Author: 安家 達也
Price: ¥ 2,625
Publisher: 未知谷
Published Date:

ツール・ド・フランスにまつわる100の話がまとまった本。
2002年までの100年間のうち、実際にレースが開催されたのは90回。毎回の優勝者を中心に、レースを巡るドラマがよくまとまっていて、コラムも充実している。


Title: ロングライドに出かけよう
Author: 米津 一成
Price: ¥ 1,365
Publisher: 河出書房新社
Published Date:

同じ著者による「自転車で遠くへ行きたい。」の続編的内容。
自転車で遠くまで走ることに人生を重ね合わしてしまう著者の自転車&ロングライドへの愛が詰まった一冊。

グレッグ・レモン
Author: サミュエル・アプト
Price: ¥ 2,625
Publisher: 未知谷
Published Date:

アメリカ人初のツール・ド・フランス優勝者であり、銃の暴発事故から奇跡的なカムバックを果たしたグレッグ・レモンのドキュメンタリー。
ハングリー精神でのし上がってきたランスとは対照的に、比較的裕福な家庭に育ってアメリカ的ノンビリズムを身につけたレモンがヨーロッパらしさが凝縮されたロードレースの世界で成功していく姿がなかなか印象的だった。

2009年06月12日

The Cyclist's Training Bible

"The Bible"を一通り読んだのでレビュー。

定番本だけあって、自転車のトレーニングについてよくまとまった本だと思う。ポジションがどうとかパーツがどうとかいったことには一切言及していなくて、ただひたすらトレーニングの理論&実践方法について書かれている。
平易な英語で書かれているので読みやすい。

この本のポイントになっているのは、基本的なレース能力としての持久力(Endurance)、筋力(Force)、走行能力(Speed Skill)の三つの要素からなる三角形。自分の強いところと弱いところとを洗い出し、目標とするレース&結果を軸に三角形のどこを鍛えればよいのかを考えつつ、ペリオダイゼーション理論(Periodization)を用いたトレーニング計画を立てる手助けをしてくれる・・・というのがこの本の大きな枠組み。

Periodizationとは、シーズンが始まる前に目標を設定し、そのレースでベストなパフォーマンスが出せるよう、何ステップかの期間を設けることで効果的なトレーニングを行うための理論。トレーニング理論としては一定の評価を得ているようだけど、スケジュールが変更になってしまった際に対応しにくいとか、目標を2つか3つに絞る必要があるとか、いくつか問題点が挙げられているようだ。

「レースに向けて段階的にトレーニングを変化させていく」という考え方は既に一般的になっているので、Periodization自体は目新しいものではない。現実問題として、トレーニングが全て予定通りにこなせるわけはないので、「ざっくりと計画を立ててそれを実行していく」ための指標程度に考えたほうがよさそう。

自分の弱点を見つけるテストプログラムを実践していくにはパワーメータの利用が(ほぼ)必須。トレーニング時の利用に関しては深く触れていないあたり、まだパワーメータがアマチュアサイクリストにとって高嶺の花だった時代(今もだけど)の本なのだなぁという感じ(初版は1995年)。このあたりは2009年になって出たForth Editionで変わっているのかも知れない(自分のやつはThird Edition)。

「聖書」だけあって、サイクリスト向けの筋トレやストレッチの方法、食事の取り方やリカバリーの方法などなど、サイドディッシュ的な情報も詰まっている。長いことアスリートのコーチをしてきた著者らしく、理論的なことと実践的なことがうまく織り交ぜて書かれているのが素敵。

「レースで結果を残す」ことを前提にした本なので、ある程度目的意識を持っている人にとっては大いに使える本だと思う。逆に言うと、ただ漠然と「速くなりたい」意識で自転車に乗ってる人にはおすすめできないかも。

2009年06月16日

ツール・ド・フランス 1986

NHKによる1986年のツール・ド・フランスのDVD。
イノーとレモンの走りが見たかったので、ゲットして鑑賞。

何が面白いって、清々しいほどに「分かってない」解説。
レースシーンを追うっていうよりは、「1986年のツール・ド・フランスをドキュメンタリータッチで取り上げた番組」という立ち位置なのだけど、どうひいき目に見てもドキュメンタリー番組としては失格の出来。ロードレースのことを知らない人にも楽しめるようにという親切心が見事に裏目に出てしまっている。

付属するリーフレットの中で市川雅敏さんがいちいち突っ込んでいるように、1980年代当時にはロードレースのことを理解している日本人はまだまだ少なかったんだろうなぁ~と思わせる内容。まぁ、イノーとレモンのドラマをドラマとして楽しむのには悪くない・・・かな。

個人的には「アピュイ・ドセル」という空力改善パーツが面白かった。エアロフローをよくするためにサドルの後ろにくっつけるフィンのようなもので、フィニョン擁するシステムUチームがプロローグで1回だけ使った後、ルール違反として使用禁止になってしまった「幻のパーツ」。

あとは、ペラトンの前を走ってる車の上でおっちゃんがバイオリン弾いてたりとか、最近のマジっぽい雰囲気の漂うツールとは少うお祭りっぽい雰囲気もよかった。

2009年07月22日

TRAINING AND RACING WITH A POWER METER

パワーメーターを利用したトレーニング本のゴールデンスタンダート・・・というか、事実上この手の本はこの一冊以外に存在しない、と言った方が正しい。

市場で入手可能なパワーメーターの解説からはじまり、LTでの出力(FTP=Functional Threthold Power)の意義&測定方法、Power Profileを用いた個々人のパフォーマンス測定、それにパワーメーターを利用したトレーニングメニューや、レースでの活用方法について、アカデミカル&プラクティカルな面からしっかりと掘り下げている。

この本の特徴になっているのがIF(Intensity Factor)やTSS(Training Stress Score)、それにMean Maximal Powerなどといった独自のコンセプト。これらは、パワーメーターを用いたトレーニングを行っていく上で、一目瞭然の分かりやすい指標を提供してくれる。そして、何よりも素晴らし{い,く商売上手な}ことには、著者はこの本を書くにあたってCycling Peaks(現Training Peaks)というソフトを作り上げていて、これを利用することで誰でも手軽にこれらのデータにアクセスすることができる。

パワーメーターを用いたトレーニングが革新的なのは、体調やコンディションに左右されることなく、ゴール・オリエンテイティッドなワークアウトを積み重ねていくことができるということに尽きる。日々のトレーニングデータを解析させて、今の自分に何が足りないのか、過去数週間のトレーニングがどれだけハードだったのか・・・といったことを定量的な数値で教えてくれるのだ。

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まだまだパワーメーターは一般サイクリスト層に普及しておらず、ウェブのあちこちでもパワーメーター機器自体の使いこなし方法や、効果的なトレーニング方法について議論されているような状況が続いている。この本に書かれていることも「よくできたひとつの方法論」に過ぎず、これからさらにパワーメーターに関する経験値が積み重ねられていくことで、自転車のトレーニングデバイスとして熟成が重ねられていくのではないかなぁ、と感じた。

"The Bible"の著者Joe Frielさんによる前書きによれば、2006年にこの本が出るまで、パワーメーターを用いたトレーニング方法に関するまとまった資料は、2001年に彼が書いたものしかなかったとのこと。今ではこの資料はウェブで無償公開されていて、これはこれでなかなか役に立つ内容になっている。FTPやTSS等、"Training and Racing with..."で紹介されているコンセプトに触れずに(触れてしまうとTraining Peaksが欲しくなる)パワーメーターで遊ぶ&トレーニングするだけであれば、まずこれを読んでパワーメーターに慣れていくのも一つの手なんじゃないかと思う。

amazon.comを覗いた限りだと、新しい版が2010年の3月に出るようだ。

2009年09月01日

Base Building for Cyclists

ロンドンの自転車屋さん(Condor)で入手したトレーニング本。

"Cyclist's Training Bible"を下敷きにして、ベーストレーニング部分に注力した本・・・というのが建前だけど、自転車競技ではトレーニングの大部分をベーストレーニングが占めるわけで、実質上この本があれば"The Bible"はいらないんじゃないかと思えるほど充実している。

"The Bible"がトレーニング&レースに向けたコンディショニングのためのシオレティカルな部分に重点を置いているのに対し、こちらはエンデュランススポーツにおけるエネルギー消費の話からはじまり、フィットネスレベルの評価方法からトレーニングプランの立て方、正しい休息の取り方、さらにはブレーキングやコーナーリング等の走行スキルまでカバーしていて、トレーニングをやっていく上で必要な情報が1段階深いレベルで詰め込まれている。

本のテーマは「ゆっくり走って強くなろう」で、"The Bible"で書かれている以上にベーストレーニングの重要性が強調されているのがひとつの特徴。"The Bible"の歴史的使命が「自転車競技にPeriodization理論を適用し、自転車向けトレーニングの叩き台を作った」ことだとすると、"Base Building for Cyclists"はその土台の上に自転車競技で強くなるために必要なノウハウをたっぷり詰め込んだひとつの成果物、ということができそう。

比較的新しい本なので、トレーニングにパワーメーターを活用することをほぼ前提にしているのだけど、トレーニングゾーンの定義に"The Bible"的なCritical Powerを使っていたり、"Lower/Upper Training Threshold"などといった(少なくとも日本ではポピュラーではない)考え方が採用されているのが独特っちゃ~独特かも。

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自分は情報の入出力の効率が悪い人間なので、トレーニング方法を学ぶにしても、何冊か読んで自分なりに納得できないと、前に進んでいくことができない(困ったもんだ)。

何冊かトレーニング本を読んできた中で、この本に書かれている内容が一番ピンときたので、来年度に向けたトレーニングはこの本をベースにやっていく予定。

2009年11月06日

When the going gets tough

Raphaから冬物のカタログが届いた。

かっこいいカタログが届くと物欲が疼く。
自転車にハマってることを差し引いても、Raphaというメーカーが持っている洗練された雰囲気は、抗いがたい何かを持っているような気がする。

ちなみに、Raphaはここで住所を登録しておくと、ニュースレターを送ってくれる。Raphaの自転車競技に対する姿勢orブランド哲学は、このあたりにまとまっているので、興味のある人は読んでみるとよいかも。

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上のページで「最高のロードレーシングの小説」「Raphaのインスピレーションです」と絶賛されているオランダ人作家Tim Krabbé による小説"The Rider"。ずっと前に姉の夫(イギリス人)に紹介されて読んだのだけど、改めて読んでみたくなったので、久しぶりに手に取ってみた。

小説の舞台は1977年にフランスで行われた架空のロードレース。山岳ありの137kmを疾走するレースで、次々と変わっていくレース状況や、主人公の心境や周りの選手の描写が生々しくて実にリアル。当時のアマチュアレーサーが速度を計るために苦労する話(当然、当時は速度計なんてものはない)や、大自然の中を駆け抜けていく爽快感、それにロードレースというタフで過酷な競技で、いかにレーサーの肉体的・精神的強さが試されるか、といったことがさりげないタッチで描かれている。さらに、小説をより一層魅力的にしているのが、物語の途中に挿入されるちょっとした小話。

たとえば、こんな話。


ツール・ド・フランスで5勝したJack Anquetilは、いつも登りが始まる前にボトルをホルダーから取り出して、背中のポケットに突っ込んでいた。チームメイトのオランダ人Ab Geldermansは、何年もそれを見ていて、ある時我慢ができなくなってなぜそうするのかを彼に尋ねた。Anquetilの説明はこうだ。

自転車乗りとは、人と自転車の二つのパーツによって構成されている。当然のことながら、自転車は人が速く走るための道具であって、少しでも重いことはその分遅くなることを意味する。タフな局面では特にこの傾向が強いので(That really counts when the going gets tough)、登りではできる限り自転車を軽くすることが何よりも肝要となる。これを実現するよい方法とは、すなわちボトルをホルダーから取り外すことである。

それゆえに、Anquetilは登りが始まる度にボトルをホルダーからポケットに移していたのだ。明快な説明である。

2009年11月19日

RaphaとCOLNAGO

COLNAGOファンの手による素敵なウェブページを発見。
http://www.colnago.cc/

2010年シーズンはブイグテレコムへの機材提供でレースシーンに復帰するCOLNAGOだけど、そのブイグカラーのEPSも掲載されてた。白とライトブルーで爽やかに仕上げたカラーリングで、COLNAGOにしては驚くほどあっさりした雰囲気。

他にもCOLNAGOへの愛が溢れた素敵な記事が並んでいるな〜と眺めていたところ、自分のMaster X-Lightと同じカラーリング(AD4)のMasterの写真が載っているではありませんか。

珍しいな〜と記事を読んでみると、どうも元ネタはRaphaのカタログ写真みたい。この珍しいMasterは、Raphaのカタログ写真を撮ってるben inghamさんの私物とのこと。Raphaのカタログ写真に限らず、Rouleurの記事にもben inghamさんの手による写真は多くって、ISSUE. 4のCOLNAGO特集の写真も彼の手によるものらしい。

Raphaのカタログに出てくる自転車の機材には様々なこだわりが感じられて面白い。
例えば、今年の冬のカタログでは、EDGE Compositesの1.25やら1.68やらのホイールが目につくし、EDGEのフォークまで登場している。2008-2009年のカタログにはCOLNAGOのExtreme-Power 08モデルのST01カラーが頻繁に登場していて、これがまたとっても素敵。

やっぱり自分はCOLNAGOが好きだなぁ、ということを再確認した今日この頃でした。

2010年01月02日

Breaking Away

ロードレースが出てくる映画を見てみようシリーズ、その1。

日本では「ヤング・ゼネレーション」としてリリースされていて、2010/2に初めてDVD化するみたい。

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お馬鹿で青春真っ盛りでイタリアンでロードレーサーなハリウッド映画。

主人公のデイブは、インディアナポリスに住むイタリア系アメリカ人の青年。
大学町に育ちながら大学には行けず、いつもつるんでいる仲のよい四人組の仲間達は大学生といがみあってばかり。自転車競技に夢中のデイブは、憧れのイタリアのチーム地元にやってくると聞いて狂喜乱舞してレースに参加するのだが・・・というお話。

主人公と自転車競技との繋がりが物語の軸になっているのだけど、自転車のことは関係なしに面白い映画だと思う。というか、自転車関係の描写に関しては突っ込みどころのほうが多いような気がするので、あんまりまじめに見すぎない方がよいかも。70年代丸出しの雰囲気や、大学に行けない屈折した感情を自転車にぶつける主人公の描写、仲間達との交遊、そして何よりも馬鹿やっちゃってる高校生の息子を暖かく見守る親達の優しさがよく描かれた映画だと感じた。

自転車関係で気づいた点についてメモしておくと、以下のような感じ。

- ロードレーサーはMasi
- トラックをペーサーにして60mph(?)
- ロードレーサーで2人乗りはいくない
- 3本ローラーで高ケイデンストレーニング
- 振れとり/BBのメンテは自分でやる
- 本物のロードレーサーは勝つためならなんでもやる
- (インディアナポリス名物の?)謎のトラック競技

2010年01月09日

American Flyers

ロードレースが出てくる映画を見てみようシリーズ、その2。

85年の映画で邦題は「アメリカン・フライヤーズ」。
日本ではDVD未発売なので、北米盤で鑑賞。

父親から受け継いだ遺伝性の病気を持つ兄弟(兄は経験のあるロードレーサー)が、世界で最も高い場所で開催され、その過酷さから「Hell of the West」と恐れられているコロラド州の自転車大会への参加を通じて家族の絆を取り戻していく・・・というお話。脚本は、"Breaking Away"と同じスティーヴ・テシック。

先日見た"Breaking Away"が普通の映画として楽しめたのに対し、こっちはロードレースの迫力ある映像に重点が置かれていて、物語の描かれ方が中途半端に終わってしまっているかなーという印象。まぁ、青春映画としてある一定の地位を占めている"Breaking Away"と比べるのが悪くって、普通によくできた映画だと思う。いずれにせよ、自転車好きなら十分に楽しめることは間違いない。

自転車競技の描かれ方は比較的まとも。
ペースアップする時にギアをガタンガタンガタンと上げる描写(そんなに一気に上げませんから)とか、細かいところではいろいろと突っ込みどころがあるけど、グレッグ・レモンのツール優勝前で、アメリカでは比較的マイナーであったであろうロードレースを描いたハリウッド映画としてはかなり頑張ったほうなのではないかと感じた。

"Hell of the West"のモデルになったのは、70-80年代に実際に開催されていた"Coors Classic"。Coors Classicは2週間にも及ぶステージレースに成長していた時期もあったらしくって、歴代の勝者にはグレッグ・レモンの名も見える。映画の中の「Hell of the West」の開会式では「偉大なサイクリスト」としてエディー・メルクス本人が出てきてたりするとこともさりげなくポイントが高い。

HELL ON WHEELS

ロードレースが出てくる映画を見てみようシリーズ、その3。

邦題は「マイヨ・ジョーヌへの挑戦」。

2003年のツールを戦うT-Mobileチームを追いかけつつ、ツール・ド・フランスというレースの美しさや過酷さ、それに素晴らしさを存分に見せてくれる映画。

選手としてのピークを越えつつも、しぶとくステージでの勝利を狙い続けるエリック・ザベルが狂言回し役。変な髪形、弱気な発言、ここぞというところで落車に巻き込まれる運のなさ・・・これらすべてが組み合わさって、実にいい味を出している。彼とその友人でありアシスト役でもあるロルフ・アルダークの信頼関係や、監督、メカニックの声を通じて、ツールへの想いが語られ、迫力あるレースシーンが展開していく。

作品の中で繰り返し語られるのは、「ツールを走るということがいかに超人的なものであるか」そして「いかにツールが多くの人を魅了してきたか」ということ。自転車が吹っ飛び、サポートカーのスキール音が響く。クラシックからジャズまで様々なジャンルを織り交ぜたBGMも秀逸で、美しいアルプスの山々をバックにかっとんで行く選手達の映像を見ているだけでも「あー、ロードレースって素晴らしいですね」という気分に浸れる。

2004年のCSCチームを追ったOVERCOMINGと似たようなポジションの作品だけど、OVERCOMINGが様々なシーンを断片的に繋いだ構成になっているのに対し、HELL ON WHEELSはツールがはじまって終わるまでの流れがしっかりしていて、説明的なナレーションも多いのでOVERCOMINGよりも敷居が低いように思う。

作品の方向性が違うので何ともいえないけど、個人的にはHELL ON WHEELSのほうが楽しめた。

2010年01月13日

The Greatest Show on Earth

ロードレースが出てくる映画を見てみようシリーズ、その4。

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1974年のジロ・ディ・イタリアを追いかけたドキュメンタリー。
Rouleur issue 14で特集されていて気になったので、WCPからリリースされているDVDを入手して鑑賞。

王者メルクスに対し、スペイン出身のクライマーManuel Fuenteが山で果敢なアタックを仕掛けていく・・・という展開となった1974年のジロ。悪天候のステージ14で致命的な遅れをとったFuenteは、リーダー争いから5分もの遅れをとってしまい、最後の山岳ステージであるステージ20で大逆転を狙って早々とアタックをかける。小柄のFuenteが単独で飛び出して、たった一人で峠を登っては下っていく姿は実に印象的。あくまで勝負を諦めることなく「勝つためにはもうこれしかない」と独走を続けるFuenteの背中には鬼気迫るものを感じる。

作品全体としてジロ・ディ・イタリアの魅力を引き出しているのもよい感じ。バチカンで法王にブレッシングを受けて出発し、地中海沿いの遺跡のような街を駆け抜け、ドロミテの険しい山岳地帯を軽量なクライマーを先頭に登って行く・・・。当時のジロでは「通りかかる街の飲食店から何でも持っていってよい」という慣習(?)があったらしく、「Water Boys」と呼ばれるアシスト達がソフトドリンクの瓶をお店から失敬して走りながら飲んでたりする姿が見られる。

メルクス全盛期の走りを見られるという意味でも、山岳で勇敢なアタックを仕掛けたFuenteの走りを見られるという意味でも、ふた昔前の時代のジロを見られるという意味でも、なかなか見ごたえのある映画だと思う。音楽を含め全体的な雰囲気は緩くって、ツールとは少々異なるグラン・ツールの雰囲気に触れることができる作品。

2010年01月27日

The Rider 再び

Raphaのインスピレーション」とされるTim Krabbeの"The Rider"を再読。

初めて読んだときはロードレース未体験だったのだけど、ロードレースを走る人の心境がある程度分かってくると、ひとつひとつの細かいエピソードがより深い実感をもって受け取れることに気づいた。レース中の微妙な心理の変化がさりげないタッチで淡々と描かれているのだけど、この描写こそが"The Rider"に特別な評価を与えているのだろうと思う。

さらに、歴史に名を残るレーサー達の戦歴や人となりがある程度頭に入った状態で読むと、ジャズ・アネクドーツ@ビル クロウ的な楽しみ方もできるところも魅力。

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個人的に好きな部分を書き出してみると、こんな感じ。

P.17
私は「逃げを容認」という表現がひどく嫌いだ。なぜかというと、この表現を使うのはえてして「逃げを容認」されるために必要になる途方もない力に関して理解がない人たちだからだ。

P.19
自転車レースとは忍耐のスポーツだ。ハニー・クイパー曰く、"レースとは、自分の皿をはじめる前に相手の皿をきれいになめ尽くすこと"

P.69
ロードレースは文明による腐敗の影響を受けない人生の縮図ということができる。もし自分の敵が地面に寝っ転がっていたら、どういった行動を取るべきだろう?立ち上がるのを手伝うべきだろうか?
ロードレースの場合、蹴り殺してしまうのが正しい選択となる。

P.119
相互的自滅のテーマ再び、である。自転車レースではお馴染みのテーマだ。勝ったレースより負けたレースのほうが多い。ここで疑問が登場する。Reilhanはどのくらい勝ちたいのだろう?Reilhanは自分がどのくらい勝ちたいと思っているのだろう?Reilhanは自分がKleverが勝つことについてどう思っているのだろう?そもそも自分はKleverが勝つことをどう思っているのだろう?

2010年02月05日

Bicycling Science / David Gordon Wilson

自転車という乗り物をアカデミカル&マニアックに調べ尽くした本。
込み入ったところは斜め読みしつつ、2か月くらいかけて一通り読破。

自転車の動力たるヒトの筋肉がどう動くかからはじまり、パフォーマンスの変化、自転車の歴史、空気/回転抵抗、ステアリングの理論、構造的強度や駆動系の動作効率、さらには膨大な量の人力の乗り物に関する情報などなど、自転車という乗り物にに関して科学的に解説できることが網羅し尽くされた内容になっている。

様々な実験データは"Bicycling Science"の著者が実際に行ったものではなく、膨大な量の参考文献から拾ってきたものによって構成されているため、断定的な書き方がされていないのが特徴。

たとえば、チェーンドライブの動作効率に関する記述はこんなノリ。

現行の自転車の動力伝達装置における伝達ロスに関する包括的な知識および、もしそこに問題があるとするならば、それをいかに修正できるのか、ということは我々にとって大きな関心ごとである。残念なことに、この領域についてはまだ意見の一致が見られてはいない。ゆえに、ここでは伝達ロスに関して報告されているデータを注意深く紹介しよう。

Ron Sheperd(1990)によれば、ディレーラーを含むチェーンによる動力伝達装置における伝達効率は、通常99%以上であるとされる。対照的に、Spicer et al(1990)の計測では、新品状態のディレーラーシステムであっても伝達効率が88%まで落ちることが報告されている。(中略)彼らの計測からは、以下の観測が導きだされる。

1. 動力伝達装置の効率は、リアスプロケットが小さくなるにつれて減少する
2. トルクの伝達量(チェーンテンション)が減るにつれて、効率は低下する
3. 最大の伝達効率は、比較的高い出力(175W)と低いペダル回転(65rpm)と最低のギア(21T程度の最大直径のリアスプロケット)によって得られ、効率は98%を超える
4. チェーンラインが真っすぐでないために生じる伝達ロスは、無視できる量である
5. 注油状態は伝達効率にほとんど影響を与えない

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はじめから通して読まなくても、「自転車が走る」「自転車で走る」ことについてありとあらゆることが載っているので、辞書的な使い方も可能。自分の記事も含めて、ウェブに載っている情報には不正確でソースも不明なものも多いので、アカデミカルな視点から自転車関係のネタを漁る入口として使える。

自転車の種類もロードバイクとかマウンテンバイクとかいったものに限定されていないので、例えば「レースで速く走る」ための知識としては不必要なものがほとんど。それでも興味深い話がてんこ盛りなので、自転車好きで科学嫌いじゃなくて、英語読むのを苦にしない人であれば存分に楽しめる本だと思う。

2010年03月08日

Racing Weight / Matt Fitzgerald

トライアスロンの選手/コーチであり、栄養士でもある著者が、エンデュランス・スポーツで最高のパフォーマンスを得るために適切な減量を行う方法を論じた本。

「ノン・アスリート向けに、美容・健康のために減量する方法を書いた本はごまんとある。ところが、エンデュランス・アスリートがノン・アスリートと同じように体重に気を使っているというのに、エンデュランス・アスリートがパフォーマンスを向上するためにスリムで軽い(そして見た目もよくて健康な)身体をつくる方法を書いた本は、一冊として存在しない。Racing Weightは、マウンテンバイクからトライアスロンまで、様々なエンデュランス・スポーツを行うあなたのようなアスリート向けに、体重・体組成を管理する独自の理論を提案する。」
(P.5)

・・・ってのがこの本の売り文句。
タイトルの"Racing Weight"とは、ベストなパフォーマンスを出すための理想的な体重と体組成の組み合わせ"Optimal Performance Weight"を指すらしい。

それぞれのスポーツ(ランニング、サイクリング、トライアスロン、クロカンスキー、スイム、ローイング)に適した体型の説明から、理想体重を推定する方法、「なに」を「どのくらい」「どのタイミング」で食べるべきかのガイドライン、エンデュランス・スポーツのための一般的なトレーニング理論や筋トレメニュー、それにアスリート向けの食事のレシピまで、なかなかよくまとまっている。

新しい本(2009年12月)なので、新しい研究成果や報告をベースにしているところも素敵。特に、あんまり期待していなかった一般的なトレーニング理論に関する部分で色々と面白いことが書かれていて参考になった。

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個人的に印象に残った部分をメモしておくと、こんな感じ。

- 結局のところ、体重の増減の決め手となるのはカロリー・イン、カロリー・アウトのバランス。

- オフシーズンの体重増加は理想体重の+8%くらいまでに抑えておくのが無難。

- トレーニング強度を上げていけば、体重は自然と落ちはじめる。

- 一般的な体脂肪計は、絶対値としては信頼できないけど相対値としてみればそこそこ正確。DEXA法を利用した正確な測定値とのオフセットが分かれば、それをずっと使えば正確な値が得られる。

- 炭水化物、タンパク質、脂肪のバランスは、絶対的な正解があるわけではない。どれも必要なものだけど、それぞれ40-80%、10-25%、20-40%程度の組み合わせであればOK。

- タンパク質は動物性のもののほうが吸収がよい。ワークアウト後に植物性タンパク質を摂る場合、ワークアウト中か終了後なるべく早いタイミングで炭水化物と一緒に20g程度摂るべし。

- 低~中強度のトレーニングは長時間やらないと意味がないと言われがちだが、一定期間に多くのボリュームをこなすことで同等のトレーニング効果を得られる。

2010年03月24日

自転車チャンピオン

1953-1955年に、史上初のツール・ド・フランスの三連覇を達成した伝説的なレーサー、ルイゾン・ボベによるロードレース讃歌。

「未来の自転車チャンピオンとなるべき少年に勇気を与えるために書いた」とされるこの本は、彼にとってのプロデビュー戦となったシルキュイ・デ・ブークル・ド・ラ・セーヌ(今はもうないフランス国内のレース)で輝かしい勝利を挙げたところから始まり、バルタリやコッピといった偉大なチャンピオン達がいかに優れたレーサーだったか、そして彼が戦ってきたレースでいかにして勝利を手にしたか、そしてまたいかに多くの挫折を味わってきたか、ということが細々と描写されている。読み始めたら止まらなくなって、一気に読み切ってしまった。

彼がツール三連覇を達成したのは、コッピの絶頂期とアンクティルが台頭してくる時期の狭間だったと言うこともできるのかもしれない。それでも、現代以上に過酷なコンディションだったツールで三回も連続して勝利し、世界選手権やその他のメジャークラシックレースで勝つことができたのは、彼が傑出したレーサーであったことの何よりの証。

自転車レースをこよなく愛し、偉大な結果を残したレーサーが半世紀近く前に書いた本は、自転車レースの魅力や本質が、今でも全く変わっていないことを教えてくれる。

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個人的に面白かったところを引用。

僕の横で、ティエタールが消耗した顔で言った。 「もう俺は引けない。だが、俺を置いてかないでくれ。この脱力発作なら、もうすぐ乗り越えられる。お前一人で飛び出しても、すぐに燃え尽きるぞ。20km先で、コースの上で大の字になるのが落ちさ」 ティエタールの言い分が気になった。彼の言うことが正しいのか、それとも間違っているのか。僕は迷っていた。 そしてティエタールの意見に傾きかけたちょうどそのとき、後ろから「パナール」のクラクションが聞こえた。やっと追い付いてきたのだ。 自分の後ろに車が来たのが分かって、ようやくこの精神的危機から逃れられた。そしてティエタールに憐れみは禁物とばかり、小さな坂を利用して彼を置き去りにした。一人残された彼は脱力症状のままコース上をジグザグに走行していた。 「あーッ!裏切り者め!」と叫ぶ声が聞こえたが、良心の呵責はなかった。僕は自分の運命に向かって、再びスピードアップした。 (P.58)
1948年のファルケンブルグの世界選手権では、コッピとバルタリは何とも情けない光景を繰り広げた。すでに遅れを取っている集団の中で二人は一向に動こうとしない。まるで二人だけの一騎打ちであるかのように、ただ互いに睨み合ったままで、トップとの差はどんどん拡がるにまかせていた。そして結局、二人ともゴール手前の何周目かでみじめにリタイアする破目になった・・・・引き分けで満足だとでも言わんばかりに。 (P.128)

(このエピソードは"The Rider"にも出てくる。一流ロードレーサーがいかに強いライバル意識を持っていたか、ということがよく分かるエピソード)
僕は愛情をこめて自分の機材を調整した。とくにチューブラータイヤは、前年のうちにストックを大量に買い込んでおいて、一冬かけて乾燥させ、パンクしにくく、ホイールに接着しやすいタイヤに仕上げた。 (P.197)

(近年でもどこかのプロチームのメカニックがタイヤをワインみたいに寝かせる話を聞いたことがあったけど、昔から同じようなことが慣習的に行われていたみたい)

自転車乗りの三種族に関する説明を勝手に要約。

- "sprinter"は英語からの借用。スプリンター。
- "grimpeur"は「攀じ登る(grimper)」人。グランペール。
-> 下りが得意な選手は「下り屋(descendeur)」(デサンデール)、あるいは「転げ屋(degringoleur)」(デグランゴレール)と呼ばれる。
- "rouleur"は「(ペダルを)回す(rouler)」人。ルーラー(ルレール)。
(P.68)

あとは・・・圧倒的な独走力を持っていたものの、アタック力に欠けていたアンクティルに対しては、「アンクティルへの助言」という形でひとつの章をまるまる彼へのアドバイスに割いている。その中でスプリントに関する部分が個人的に多いに励みになったので、引用。

とはいえ、この章を閉じる前に、ぜひ言っておきたいことがある。つまり、意思ー勇気と言っても同じことだがーによってしか実現できない進歩について言っておきたいのだ。 例えば、デビューした頃の僕は、自分はスプリンターじゃないと思っていた。僕のトップ・スピードなんて大したことはない、と自分でも馬鹿にし切っていて、集団ゴールになったときでも、勝負を挑もうなんて考えもしなかった。僕にとっては、トップ・スピードというものは生まれつきの才能であって、それに恵まれるか恵まれないかだけの話だった。 だが、何年か経つうちに、そういう風に理屈で考えるのは馬鹿げていることが、経験から分かってきた。200km以上の過酷なレースをした後で疲れ切っている場合には、いくら優秀なスプリンターでも、よりスピードの劣ったーただし、より余力のあるー選手に敗れることがよくあるのだ。
少しずつ僕はスプリントで戦うためのポジション取りを学んでいった。それには多くの努力と忍耐が必要だった。だがすぐに、自分がかなり進歩していることに気が付いた。負け戦をする代わりに、絶えず自分に言い聞かせていたのだ、「気味はまだ元気だ、まだ余力がある。ポジション取りさえ上手くやれば、勝てるんだ。君に勝てないわけがない」と。そして「君に勝てないわけがない」と繰り返しているうちに、僕は少しずつ、集団ゴールになった場合の要注意選手、と誰からも認められるようになっていった。 (P.191)

2010年04月13日

Tomorrow We Ride

1953-55年に初のツール3連覇を達成したフランス人チャンピオン、ルイゾン・ボベの弟で、彼自身も優れたサイクリストであったジャン・ボベの本。敬愛する兄であるルイゾン・ボベと一緒にサドルの上で過ごした日々のことを主に綴っている。

去年木祖村2daysで勝ったリー・ロジャースさんのおきなわ参戦記にこの本の引用があったので入手してみて、その流れでルイゾン・ボベの「自転車チャンピオン」を読みはじめたらそっちのほうを先に読み終えてしまい、ようやくこっちも読了。

大学で英文学を学び、引退後はジャーナリストとしても活躍したジャン・ボベの文章は中身が濃くて、自転車活動以外のことについての記述もウィットに富んでいて面白い。タイトルの"Tomorrow We Ride"("Demain, on roule...")とは、引退後に「昔と同じように走ろうぜ」という兄からの呼びかけなのだけど、勝ち気で子供みたいな性格の兄と、インテリで兄思いの弟という関係がよく分かる言葉。肩を寄せ合って一緒に走っている本の表紙の写真にも現れている通り、(特に引退後は)色々あったとはいえ仲のよい兄弟だったのだろう。

もちろん、本で扱われているのは美しい物語ばかりではなくて、「自転車競技の黄金時代」とされる50年代のレースシーンの影にあった八百長やドーピングに関しても多くのページ数が割かれている。(多分に実験的な利用だったみたいだけど)ジャン・ボベ自身もキャリアの最後にアンフェタミンを服用してレースに参加したことを告白していて、ドーピング問題の扱われ方が今と昔で違うことにも気づかされる。

リー・ロジャースさんが引用している箇所は、P.113の自転車競技がいかに彼にとって楽しいものであるかを描いている部分。

“…繊細で、奥深く、刹那的。到達すると、自分を捕まえ、抱き上げ、そして再び放り出す。自分ひとりのためだ。スピードと緩和、力と優美さのコンビネーション。純粋な喜びなのだ。”

原文は

"...delicate, intimate and ephemeral. It arrives, it takes hold of you, sweeps you up and then leaves you again. It is for you alone. It is a combination of speed and ease, force and grace. It is pure happiness."

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Jean Bobetさんは未だに健在で、Roullerのvol.12でJean Bobetのインタビューがあったみたいなのだけど、売り切れていたので入手できず・・・。
無念。

2010年06月03日

ラフ・ライド / ポール・キメイジ

アイルランド出身の元プロレーサー、ポール・キメイジの本。

副題に「アベレージレーサーのツール・ド・フランス」とある通り、85年から89年までのプロ生活の中でひとつの勝利も上げることなく引退した彼のキャリアは、あくまで「アベレージレーサー」のもの。

アイルランド代表の自転車選手として活躍していた父をもち、アマチュア選手としてアイルランドチャンピオンに輝いた彼も、プロのロードレース界では輝くことはできず、5年間の選手生活に別れを告げてジャーナリストとしての道を選ぶ。ツールには3回出場して1回完走。

この本には、そんな彼が自転車競技に楽しさを見いだし、アマチュア選手として活躍し、プロ選手として送った日々のことが書かれている。ヨーロッパでプロ選手としてやっていくために平然とドーピングが行われている様子や、「エンターテイメント・ショー」として開催されるクリテリウムでの汚い話などなど、刊行された当時はそのあたりの内容がショッキングに受け止められたらしい(逆に言うと、それまでこの手の内部事情は暗黙の了解として関係者だけしか知らなかった)。

選手や監督の名前を出して直接非難していたり、「一握りのスター達」以外の人間がプロ選手としてやっていくことの辛さ・厳しさが諦めきった口調で綴られていて、引退して1年経たずに出したこの本には、彼が送ったプロレーサーとして生活に対するフラストレーションが詰まっているように感じた。

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自転車選手の栄光に鼓舞され、彼らの勇気に魅了されて、ぼくはその一員になる夢に向かった歩み出した。苦しい闘いだったが、青春を捧げてようやく夢を掴み、栄光と汗に輝く顔になった。不幸だったのは、約束の地は夢見てきたそれにはほど遠く、むしろ逃げ出そうともがいた世界に奇妙なほど似ていたことだ。つらかった。どうしようもないほどつらかった。この世界もまた汚く、腐敗していた。逃げだしたかった。

だが、逃げだすのは入るのと同じくらい難しいことがわかった。高度な自転車技術を獲得するために青春を捧げたが、現実の世界でそんなものが役に立つだろうか。おそらく役には立たないだろう。もう後もどりはできない。だからぼくは、彼らのルールに従って闘った。そして、生き残るためには薬物も摂らざるえなかった。

三度薬物を使ったが、一度も捕まらなかった。もし捕まっていたら、捕まった選手がすべてそうであるように、ぼくも「卑劣漢」の烙印を押されていたことだろう。だが、ぼくを「卑劣漢」とか「ずるい選手」とか呼ぶのはおかしい。ぼくは断じて「卑劣漢」ではなく、「犠牲者」だった。腐敗した制度、選手にドーピングを禁止するどころか、そそのかす制度の犠牲者だった。
(P.310)

彼が使った「薬物」とは、疲れ果てた状態で臨まざるをえなかったクリテリウムレースでチームメイトに打ってもらったアンフェタミンのこと。当時はツールなどのメジャーレースで名前を売った選手の「顔見世興行」のような形でフランス各地でクリテリウムが行われていて、こういったレースはキメイジのようなアベレージレーサーにとっては数少ない「稼ぐチャンス」だった。有名選手を窮地に追い込むような走りをする「かませ犬」役は、レースをエキサイティングなものにしたいレースディレクターの側からすれば重宝する存在で、いくら疲れていても元気な走りを見せる必要があった選手達は薬に頼らざるを得なかった・・・という事情があったようだ。

こういったクリテリウムレースではもちろんのこと、それ以外にもドーピングの検査が行われないことが事前に分かっているレースがあったそうで、そういった「ズル」をすることが織り込み済みのレースで純潔を保つのは難しことだったようだ。どこの世界にも汚い部分はあるとはいえ、自転車レースへの愛着が人一倍強く、アイルランドでそういった世界に触れることなく育ったキメイジには大きなショックだったのだと思う。

今では抜き打ちの検査が行われるようになっているし、捕まった選手に対する制裁も厳格化しているので、自転車レースをめぐるドーピング事情は一時期に比べればマシになってきているのだろう(そうであると願いたい)。そうはいっても、プロの世界の厳しさ、観客を喜ばせるショーとしての側面・・・などといった本質的なところは変わっていないわけで、ドーピングに限らずズルを根絶するには主催者、選手の双方に断固たる決意(by桜木花道)が必要になるのだろうと思った。

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