パワーメーターを利用したトレーニング本のゴールデンスタンダート・・・というか、事実上この手の本はこの一冊以外に存在しない、と言った方が正しい。
市場で入手可能なパワーメーターの解説からはじまり、LTでの出力(FTP=Functional Threthold Power)の意義&測定方法、Power Profileを用いた個々人のパフォーマンス測定、それにパワーメーターを利用したトレーニングメニューや、レースでの活用方法について、アカデミカル&プラクティカルな面からしっかりと掘り下げている。
この本の特徴になっているのがIF(Intensity Factor)やTSS(Training Stress Score)、それにMean Maximal Powerなどといった独自のコンセプト。これらは、パワーメーターを用いたトレーニングを行っていく上で、一目瞭然の分かりやすい指標を提供してくれる。そして、何よりも素晴らし{い,く商売上手な}ことには、著者はこの本を書くにあたってCycling Peaks(現Training Peaks)というソフトを作り上げていて、これを利用することで誰でも手軽にこれらのデータにアクセスすることができる。
パワーメーターを用いたトレーニングが革新的なのは、体調やコンディションに左右されることなく、ゴール・オリエンテイティッドなワークアウトを積み重ねていくことができるということに尽きる。日々のトレーニングデータを解析させて、今の自分に何が足りないのか、過去数週間のトレーニングがどれだけハードだったのか・・・といったことを定量的な数値で教えてくれるのだ。
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まだまだパワーメーターは一般サイクリスト層に普及しておらず、ウェブのあちこちでもパワーメーター機器自体の使いこなし方法や、効果的なトレーニング方法について議論されているような状況が続いている。この本に書かれていることも「よくできたひとつの方法論」に過ぎず、これからさらにパワーメーターに関する経験値が積み重ねられていくことで、自転車のトレーニングデバイスとして熟成が重ねられていくのではないかなぁ、と感じた。
"The Bible"の著者Joe Frielさんによる前書きによれば、2006年にこの本が出るまで、パワーメーターを用いたトレーニング方法に関するまとまった資料は、2001年に彼が書いたものしかなかったとのこと。今ではこの資料はウェブで無償公開されていて、これはこれでなかなか役に立つ内容になっている。FTPやTSS等、"Training and Racing with..."で紹介されているコンセプトに触れずに(触れてしまうとTraining Peaksが欲しくなる)パワーメーターで遊ぶ&トレーニングするだけであれば、まずこれを読んでパワーメーターに慣れていくのも一つの手なんじゃないかと思う。
amazon.comを覗いた限りだと、新しい版が2010年の3月に出るようだ。