06/01-03 大無間山(南アルプス)

地獄の20時間行動録

ここ2年の間、アクシデントや天候に邪魔されて延期を繰り返していた大無間山行きをようやく決行した。

大無間山は南アルプスの深南部に位置する日本200名山に数えられる一座で、最近では200名山ハンターの登山者が多く訪れることでその険しさが一般にも知られつつあるマニアックな山だ。大井川の源流である井川を延々と遡ったところにある田代の集落からのアプローチがメジャーだが、道が悪い上にアップダウンが多く、言い出しっぺのIさんも去年の下調べで苦労したようなので、田代の民宿に2泊して6/2(土)の1日に勝負を賭ける計画となった。

6/1
この時期は1日に1本しかない田代行きのバスが静岡駅を出発する8:18に間に合うために早起き。まとめておいたザックをひっつかんで東横線で菊名に行き、時間に余裕があったので新横浜まで歩いて新幹線に乗る。新静岡で4人のパーティーが集合したので、静鉄バスにて田代方面へ。
今日は時間があるので、田代の少し先にある赤石温泉・白樺荘でお湯につかり、ゆっくり昼食を食べてから帰りのバスで田代に戻ることにした。白樺荘は実にのんびりとしたところで、静岡方面の人々がわざわざ2時間以上も山道を走ってやってくるほどに優れた泉質を誇っている。入浴料もなく、もともとは温泉宿だったであろう施設をそのまま使った食堂ではなかなか美味しい食事が期待できる。

再度バスに揺られて田代まで戻り、今日と明日の宿である民宿ふるさとに到着。明日の朝のために登山口までの道を確認し、集落をぷらぷらと歩く。田代は10分か15分も歩けばぐるりとひとまわりできてしまう小さな集落で、一軒一軒がみなお茶畑をもっていたり、村の中心に火の見やぐらがあったり、と昔ながらの雰囲気を色濃く残している。
夕食には鹿刺しや美味しい椎茸などなど、地元の味が盛りだくさんの食事をいただき、明日に備えて早々と眠りについた。

6/2
予定通り1:30に起床し、2:00に民宿を出発。
思っていたよりも気温が高いので、モンベルのマウンテントレーナーは持っていかずに、Tシャツとパタゴニアのインナー(キャプリーン4)のみを着ていくことにした。
登山口となっている神社の鳥居を抜けてしばらく歩くと林道を横切り、すぐ先に登山計画書の提出ポストがあるので計画書をいれ、ぐいぐいと高度を上げて行く。

休みを挟みながら単調な上りをこなしていくと、周りが少しずつ明るくなってくる。今日のこの山域は全体的に雲に覆われているらしく、稜線沿いの登山道にはどんよりと霧がかかっている。小無間小屋の手前の急登はなかなかしんどいが、珍しい白い花をつけたコイワカガミがところどころに群生していて、目を楽しませてくれた(調べたところ、ヤマイワカガミというそうだ)。

巨大な岩が見え始めると小無間小屋のあるピークはすぐで、長い登りから開放された安堵感と、ピークの開放感(といっても展望はない)で一安心。小屋は「避難小屋の割にはマシ」という雰囲気で、積極的に泊まりたいと思う場所ではない。

しばらく休んでから、このルートの核心部とも言える小無間山への歩きを開始。この区間の高度差はたったの350mだが、小無間山の手前のコル(1850m)から小無間山(2149m)までの急登だけで300mあり、さらにそこにたどり着くまでに足場の悪いアップダウンが続くため、非常に厄介な道のりとなっている。

顕著なP3のピークを越え、コルまで下りて休憩。これに続くP2、P1は距離的には近いが道が悪いので難儀する。不明瞭なP1のピークを越えて下っていくと、まず左側、それに続いて右側に大崩落地がある。晴れていれば後者からは富士山が望めると地図にはあるが、今日は雲に隠れているようだ。300mの急登も道が悪く、簡単に小無間のピークにはたどり着かせてくれない。

「もうつくかな〜」「もうつくかな〜」を繰り返しているうちに、ようやく小無間山に到着。ピークを少し越えたところにはこれ見よがしに熊の爪痕が残されている。最近は入山者も多くて熊も戸惑っているのかもしれない。
小無間から大無間までのルートは、たまに道が不明瞭になることを除けばこれまでとは打って変わって「普通の山道」というテイスト。悪くないペースで関ノ沢ノ頭(中無間山)を越え、二重山稜になっているあたりで休憩。ここからはワンピッチで頂上なので、Wさんと一緒に先行してお茶を沸かすことにした。

この最後のワンピッチは思っていたより長く、途中からは結構な量の雪が残っている部分があった。頂上は広く、展望はないものの居心地は悪くない。アルコールバーナーでお茶を沸かし、後続勢が到着したところで登頂を祝って握手。一通り写真を撮ったりしてから下山に取り掛かる。

普通の山であれば、山頂にたどり着いたタイミングで山行の2/3は終わった気になるものだが、この山の場合はようやく1/2という感じ。厄介なアップダウンと長々と続く急な下りのことを考えると、絶望的な気分にさせられる。

小無間山までの道のりは普通にクリアーしたものの、その後の300mの下りとアップダウンに苦戦し、小無間小屋に着いたのは18:25。その前にP2とP3のコルでとった休憩で「18:30に小無間小屋出発」という意識を共有していたので、すぐに小無間小屋を後にして、夕闇迫る急斜面を下っていく。
この時期は19:00頃に日没なので、せめて急斜面だけは暗くなる前に突破しておこう・・・と悪戦苦闘し、急斜面が終わったあたりで暗くなってきたので休憩。

この先は、尾根が広くなって分かりにくくなっているところをWさんにルートファインディングしていただき、暗闇の中を延々と下り続ける。Kさんのつけていた熊よけの鈴の音が「チリン・・・チリン」と鳴りつづけるのが数少ない心の支えのうちのひとつ。
明るいときには明瞭な道でも、ひとつのミスが致命傷となる暗闇の中では、先行者がつけてくれたテープのありがたみが自ずと異なってくる。短めのトラバース、そして雷段を越え、斜面が緩やかになってからが本当に長く、「いい加減にしろ!」と心の中で叫び続けているうちにようやく鉄塔を通過。林道にたどりついたところで最後の休憩をいれてから宿に帰着した。

計画では17時間の行動だったが、それさえも大幅に上回る20時間の行動で、体力的にも精神的にも限界に近い壮絶な一日だった。民宿には大無間山頂から遅れることを伝えてあったので、風呂で汗を流してから残しておいていただいた食事にありつき、崩れ落ちるようにして布団にもぐりこんだ。

6/3
7:30に朝食をいただき、11:04のバスまで民宿でのんびりさせていただく。体中が筋肉痛で、特に階段の下りには激痛が伴う。今日は一昨日と同じように下りのバスで白樺荘まで行き、ゆったりと温泉に浸かって上りのバスで静岡まで戻る休養日兼移動日だ。

日曜日なので、白樺荘には思いのほかたくさんの人がいて、ちょっとした賑わいを見せている。お風呂はそこそこ混雑していたが、静岡中から集まった温泉好きな皆様が「やっぱりここはいいねぇ」なんて話していて、なんだか微笑ましい。
食堂で完登の祝杯を挙げ、のんびりしているうちに帰りのバスの時刻となったので、3時間バスに揺られて静岡から新幹線で帰宅した。

Iさんに誘われなかったら間違いなく自分では一生行くことのなかった山で、非常に有意義な経験ができた。まだまだ自分の登山の経験や実力が足りないことを思い知らされたのと同時に、限界に近い状態でも人間それなりに正しく機能するもんなのだなぁ、という強い印象が残った。

ルートが整備されていたり、小屋があったり、情報が豊富だったり、人がたくさん入っていたり・・・といったことが積み重なっていって、メジャーなルートを普通に歩く登山では随分とリスクが軽減されているように思う。そういった要素を取っ払って、山と人とが直接対峙した時にどこまで山を征服できるのか・・・ということを体験できたような気がした山行だった。